ガスコンロを変えたら危機一髪

kayako

こうして私の心配性はさらに悪化した。



 その日、私たち夫婦は思い知った。

 ガスの救急車なるものの存在と、その有益性を。




 それは結婚して数年の出来事。

 我が家で使用しているガスコンロが古くなってきたので、夫と相談の結果、思い切って買い替えることになった。

 せっかくなのでショールームまで出かけ、良さそうなガスコンロを選び、これ!と決めたものを購入決定。

 さすがにガス管接続などを含む設置作業を自分たちでやるのは危険すぎるということで、業者のかたにお願いすることに。



 数日後、人の良さそうな業者のおじさんと共にやってきた、我が家の新ガスコンロ。

 そして設置作業が始まったが……


 作業中、何故か部屋全体に、次第に若干のガス臭が充満していった。

 しかし業者のおじさんはそのまま作業を続け、設置完了。

 ガス臭が一向に消えないのが少し気になったが、おじさんも特に何も言わず帰っていった。


 多分この臭さは設置作業にはありがちなことで、おのずと消えていくのだろう――

 私ら夫婦は二人とも、最初はそう楽観視していた。

 そして買い物の予定もあったので、数時間ほど夫婦で出かけることに。



 しかし出かけている最中、私の中では少しずつ、室内に執拗に残っていたあのガス臭が妙に引っかかり始めていた。

 ――いや、大丈夫。業者を頼んでやったんだから、おかしなことは起こらないはずだ。

 いつもの心配性が出ているだけ。プロに頼んだのだから、万が一など起こるはずがない。

 買い物済ませて帰ったら、あの臭さはきれいさっぱり消えているはず!

 そう自分に言い聞かせながら、自分の生来の心配性を何とか打ち消そうとした。



 ――だが、その数時間後。

 帰ってきて扉を開くなり、私たち夫婦を待ち受けていたのは、

 ド素人でも明らかに危険と分かるレベルの、とんでもないガス臭だった!!!



 出かけた時より数倍の濃さになった、眩暈がするほどのガス臭。

 これは非常にまずい事態と、即座に気づく私たち。

 それでも中へ入って電気をつけようとする夫の手を、慌てて止めた。

 この瞬間はまさに、私の人生でもトップ5入りするレベルの危機一髪だったと思う。

 ガス漏れ中に迂闊に電気をつけると、ガスに引火して爆発、大事故の可能性が――!

 危ない。あまりにも危ない。



 当然私たちは慌てふためいて、携帯からガス会社に連絡。

 真冬なのに真っ暗な中、暖房もつけられずコート着たまま震えながら、窓全開で換気しながらひたすらガス会社を待つことに。

 滅茶滅茶寒かったことしか覚えてない。



 そして間もなくやってきたのがあの「ガスの救急車」。

 救急車を呼んだ経験さえ当時はあまりなかったのに、いきなりお世話になった「ガスの救急車」。

 要は、ガス事故に対応する緊急車両。救急車や消防車と同じ扱いで、これがサイレンを鳴らして道路を走っていたらその走行を優先しなければならない。

 なお、「ガスの救急車」は俗称で、正しくは「ガスの緊急作業車」。


 その緊急作業車にはコンロ購入時の担当者のかたも一緒だったように記憶している。

 玄関から外の道路にまで警戒網的なものが張られ、随分ものものしい雰囲気になったのは覚えている。

 とにかく迅速に対応してくれて、心からほっとした。


 当時の自宅のすぐそばにはパン屋や美容室などが密集しており、もし事故が起これば周辺を巻き込んだ大火事になる可能性さえあったと思うと、今でもゾクっとする。



 あの時、業者にお願いしたにも関わらず何故、ガス漏れ危機一髪が発生したのか。

 それは未だに謎ではあるが――

 もしかしたら設置作業のかたわら、うっかり食器洗おうとして水を流し、そこに置かれていたホースに多少水がかかったせいか……などと、当時は色々考えてしまった。

 というか、こちらに落ち度があるとしたらそれぐらいしか考えられないが、それだけであそこまでの危機一髪になるものか?という疑問も当然ある。

 とにかく以降、自分の心配性がより一層強固になったのは間違いない。何事にも「絶対大丈夫」はありえないのだと。



 それでもやっぱり……

 というか、そういうことがあったからこそ、ガスコンロ交換は信頼できるプロの業者に頼むべきだと今でも思っております。

 プロでさえあんな事故が起こるのに、私のようなド素人がやってタダで済むとは到底思えないし!!




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