第5話ー2
「やあ、ピースケ! 今年もよろしくな! ていうか……君のガールフレンドはどうしたんだい? それに君……ずいぶんと痩せてしまって……」
「チッチは、ぼくを庇って、天国へと逝ってしまったんだ……ぼくももう長くは生きられないみたいだ……」
ハヤトは、とても寂しそうな顔をした。
「ねえ、ハヤト。ぼく、もう来年の春は君に会えないかもしれないんだ。友達として、ぼくの最期のお願いをきいてくれないかな?」
「ああ。俺にできることだったら、やってやるぜ!」
「ぼくを……ぼくを、君の背に乗せて外の世界に連れ出してはくれないか? ごらんのとおり、ぼくはとっても弱っている。それに、ぬるま湯につかって生きてきたから、あの広い大空を飛び回る力もない。君の足手まといになるようなら、見捨ててくれていいから……お願いだよ、どうか、どうか……」
ぼくの気持ちを汲み取ってくれたハヤトは、くちばしで鳥かごの扉を開け、ぼくのほうに背を向けた。
「さあ! 早く乗れ!」
「ありがとう! ありがとう! ハヤト!」
ぼくが生まれて初めて見た外の世界は、キラキラと輝いていた。
あまりの眩しさに、ぼくは目を細めた。
「ああ! 外の世界って大きいんだね! 風がとっても気持ちいいよ! この世界をチッチにも見せてあげたかったなあ……」
と、その瞬間、鷹が、ハヤトとぼくを目掛けて物凄い速さで突進してきた。
「逃げて! ハヤト! ぼくのせいで君に死なれてしまったら、ぼくが困る!
ありがとう! ぼくのお願いをきいてくれて、ぼくとチッチの夢を叶えてくれて、ほんとうにありがとう! 最期に、こんなに素晴らしい世界を見ることができて、ぼくは、とっても、とっても幸せだよ!」
ハヤトは小さく「ありがとう、親友」と呟き、涙を堪えながら、俊敏に身を躱し、鷹の攻撃をすんでのところで避けた。その衝撃で、ぼくはハヤトの背から滑り落ち、力なく地上に向かって落ちていった。
時間にしたら、数十秒のできごとだったかもしれない。
その間、ぼくの脳裏にはいろいろな想い出がよぎった。
小鳥だったときの頃、
パパさんとママさんとの温かい暮らし、
ハヤトとの出会い、
そして……チッチとのたくさんの想い出……
「なあんだ……ぼくって、とっても幸せだったんだ……」
了
いつかあの大空へ 喜島 塔 @sadaharu1031
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