【ショートストーリー】「星の螺旋傘」

T.T.

【ショートストーリー】「星の螺旋傘」

 夜、星は悲しく輝いていた。

 それはまるで、永遠の孤独を湛えた宝石のようだった。

 地上に立つ小さな灯台、その頂点に立って私は星を見上げる。

 私の目の前には錆びた鉄梯子があり、それを上ったその先には、一筋の光を灯し続ける灯台守としての仕事があった。

 けれども今夜は、その灯台の明かりよりも、無数の星々が放つ、凍えるような白色の煌めきが私の胸を捉えて離さない。

「星々は何を知っているのだろう」と、私はぼんやりと思う。

 彼らはなんの恩恵も求めず、ただ静かにそこに在る。

 地上の瑣末な悩みなど、星々に取っては微塵も意味をなさない。

 時折、彗星のように一筋の光が天を滑る。

 ああ、夜よ、謎を秘めたままの君は、幾億もの時を経て、依然として私たちに語りかける。

 その言葉は音もなく、ただ光の中に秘められている。

 そしてそこには、昨日まで確かに存在していた星が一つ欠けている。

 私たちはその星が消えてしまったことを知らない。

 知るすべもない。

 星が死ぬ瞬間など、人間が知る由も無いのだから。

「星が消えると、どこかで新しい星が生まれるのか?」

 私の考えは星空に吸い込まれて、答えのない宇宙の彼方へと漂う。

 灯台の電灯が一瞬、微かにチラつく。

 現実に引き戻された私は、重い脚を一歩前に出し、再び鉄梯子を下り始める。

 灯台守としての夜は長い。

 けれども、私の心の中では、幾つもの星が静かに、しかし力強く生まれ変わりを遂げる。

「生まれ変わりなんてあるのかな……」

 私は呟く。

 その夜、私は眠りにつく。

 そして夢見る。

 空には、私を導くかのような螺旋状の光があり、それが傘を開いたような形を成して広がって行く。

 それは、未来や過去の誰も見たことのない宇宙の姿。

 人はその美しさに言葉を失い、ただただ畏怖の念に駆られるのだろう。

 そこには、ありとあらゆる生命の可能性が凝縮していて、星の命の継続性を図っている。

 私は、その光の中に一つの質問を投げかける。

「あなたは、誰ですか?」

 夢の中で、どこからともなく答えが返ってくる。

「私たちは、過去でも未来でもない。ただの存在。あなたたちと同じ、時間という概念を超えた存在だ」

 目が覚めると、夜はまだ深い。

 灯台の光は一定のリズムで周囲を照らし続ける。

 けれども私には、星空が違って見える。

 螺旋傘の夢が、私の網膜に焼き付いている。

 そう、夢なのか現実なのか、その境目さえも曖昧になって。 星はただ遠く、理解しがたいもののようでいて、時にはこんなにも近く、心に触れるもの。

 それが人間と星の、不思議な関係なのだ。

 星が、また一つ。

 静かに瞬く。


(了)

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【ショートストーリー】「星の螺旋傘」 T.T. @shirosagi_kurousagi

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