ダンジョンに置き去りされた僕を助けてくれたのは神獣様でした

温故知新

ダンジョンに置き去りされた俺を助けたのは神獣様でした

「えっ?」



 ここは、ダンジョンの最深部。

 誰も足を踏み入れたことがない場所で、僕は仲間だと思っていたパーティーに唐突に殿しんがりを言い渡された。



「聞こえなかったか! お前は、俺たち勇者パーティーの殿として、そこにいる魔獣を引き付けろ!」



 最深部の部屋に入った瞬間、魔獣の巨大なシルエットを見て、我先に逃げようとするのは、僕の幼馴染でパーティーのリーダーを務めているアデルだった。

 彼は、この世界では貴重な加護である『勇者』の加護を持っていた。

 ちなみに、この世界では生まれた瞬間に創造神レマイヤから加護が授けられると言われている。

 人によって授けられる加護は異なるが、大半の人間は授けらえた加護に従って人生を送っている。



「でっ、でも! 逃げるならリナリーの魔法で魔獣の気を逸らせば……」

「はぁ!? 私の魔法より『テイマー』なんて使えない加護を持っているあんたを盾にした方が良いに決まっているじゃない!」



 アデルの腕に絡みつき綺麗な顔を歪ませていたリナリーは、『魔女』の加護を持っているためあらゆる魔法を使うことが出来る。

 すると、下卑た笑みを浮かべたリナリーが、持っていた杖を魔獣ではなく俺の方に向けた。



「そっ、そんな……」



 今まで僕は、仲間のためにあらゆる生き物をテイムして索敵をしたり、パーティーメンバーの雑用を飼って出たりしていたのに、これはあんまりだ。


 リナリーの笑みを見て裏切られたような気持ちになっていると、閉じていたはずの扉が開いた。

 恐らく、アデルが勇者の加護を使って無理矢理開けたのだろう。



「じゃあ、そういうことだから頼んだぞ! お荷物野郎!」

「あっ、待って!」



 僕を一人にしないで!


 慌てて手を伸ばそうとしたその時、リナリーが放った火球が僕の目の前に直撃した。



「っ!?」



 リナリーの魔法で僕が怯んだ隙に、歪んだ笑みでリナリーの腰を引いたアデルは、彼女と共に魔獣がいる部屋を出ると慌てて扉が閉じた。



「一体、どうすればいいんだ?」



 仲間に置いて行かれた僕は、閉じられたドアを見ながらその場にへたり込む。


 僕に出来ることは、生き物をテイムして力を借りるだけ。

 アデルのせいで剣の修行は出来なかったし、リナリーが邪魔するお陰で魔法を扱うことも出来ない。



「そんな僕に、どうやって魔獣を倒せっていうんだよ」



 耳をつんざくような魔獣の雄叫び声に、小さく肩を揺らした僕はそっと後ろを振り返る。

 そこには、目を細めた魔獣がこちらを観察していた。


 あぁ、僕。ここで何も出来ないまま死ぬのかな。


 己の無力さに拳を握って目を閉じた瞬間、頭の中に突然、誰かの声が流れ込んできた。



「あぁ、やはりお前だったか」

「えっ?」



 だっ、誰!?



 驚いて目を開けた時、漆黒の闇を纏った魔獣が神々しい光を放った。


『眩いばかりの光を纏う巨大な鳥』……もしかして!?



「もしかして、あなた様は神獣様なのですか?」



 太古の昔、未曾有の災厄からを救おうと創造神レマイヤから遣わされた使者。

 それは、眩いばかりの神々しい光を纏う巨大な鳥の姿をしていたという。


 幼い頃から聞かされたおとぎ話を思い出した僕は、目がくらむような光に目を細めながら恐る恐る問いかける。

 すると、純白の光を放つ神獣様が小さく頷いた。



「いかにも、我は神に遣わせられた神獣である。そして貴様は、創造神に選ばれた神獣使いだな」

「えっ!? 僕が神獣使いなのですか!?」



 『神獣使い』といえば、神獣様と共に世界の危機を救ったと言われている伝説のテイマーじゃないか!


 啞然とする僕に、神獣様は大きく羽を広げた。



「あぁ、そうだ。ゆえに、我はここまでの道を示した。世界に危機が再び訪れようとしていることを告げるために」

「っ!? 『世界の危機』って、つまり再び魔王がこの世界に現れるということですか?」

「そういうことだ。だから、貴様には神獣使いとして我と共に世界を救ってほしい」

「っ!?」



 『勇者』の加護を持つアデルじゃなくて、『テイマー』の加護を持つ僕が世界を救うの!?


 言葉を無くす僕を見て神獣様が目を閉じると、巨大な体を一般的な鳥の大きさにまで小さくする。

 そして、僕の足元まで近づくと僕の肩に飛び乗った。



「まぁ、今すぐ答えを出せとは言わん。だが一先ず、我と共にここから出ようとではないか。貴様もいつまでもこんな場所にいたくはないだろ?」

「はっ、はぁ……」



 突然、神獣様から『神獣使い』だなんて言われてもイマイチ信じられない。

 けれどもし、僕が本当に神獣使いなのだとしたら……


 肩に乗ってる神獣様に戦々恐々としつつ、僕はいつの間にか開かれていた転移陣に乗って外に出た。


 そして、この出会いが仲間に虐げられていた僕の運命を大きく変えることになるとは、この時の僕は思いもしなかった。

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ダンジョンに置き去りされた僕を助けてくれたのは神獣様でした 温故知新 @wenold-wisdomnew

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