episode (暁天の魔導師カットシーンメモ)

 魔導協定標準時にして、午前3時19分―――

 星明りひとつない暗闇は、突如として眩しい雷鳴によって切り裂かれた。カっと空を割いた光の後にやや遅れて轟音が響く。

 低い地鳴りはだが、大地からではなく、遥か上空から鳴り響いている。切られた夜の暗闇の向こう側、まるで蜃気楼のように揺らめきながら光り輝く『何者か』が顕現しようとしていた。

 金色に光り輝く無数の輪。

 ひとつの輪の軸に別の輪が、その輪の軸にまた別の輪が、というようにしてそれぞれの輪が独立して動いているように見えつつ、その実、それら全てがひとつの生き物のように連動している。最も外側に位置する輪だけが独立し、どことも繋がっていない。それは薄い金属の様にも見え、ふたつの巨大な車輪が合わさったかのようにも見える。車輪ではありえない、ということは誰の目にも明らかだった。

 その車輪のようにも見えるものに、純白の翼があったからだ。

 淡く輝き燐光を撒く翼は12対。

 24枚もの巨大な翼がまるで波打つように羽ばたきを繰り返す。

 あまりにも高濃度の魔素が周囲に影響を与えているのか、それの周りは常に蜃気楼のように歪み、揺らめき、まるで立ち昇る湯気のような気流を生み出している。金色に輝いているにも関わらず、その周辺では同時に、大気が複雑で安定しない色を見せた。赤から青、青から緑、緑から黄色、黄色から紫、紫から赤、と絶えず変化し続ける。

 その不可思議な、誰も見たことのない光景は敵国であるシクザール本国はもちろんのこと、遠く離れた大陸の端の国々でも目視できた。

 それ程の規模であった。

 術者本人であるアルフォンスからも、強烈な魔素が立ち昇る。足元から上昇気流となって吹き抜けていく魔素に、紅茶色の髪が逆立つ。終ぞ見せたことのない好戦的な目が、眼前のシクザール軍を捉えていた。



(暁天の魔導師/アルフォンス召喚シーン)

※ 連載中の本編を読む方はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16818023212113523476

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今日の気分で書き散らし。 なごみ游 @nagomi-YU

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