第3話

 痛い話が続いたので、最後は私の方向音痴が招いた危機一髪のお話。


 チラホラとご存知の方もいらっしゃると思うが、私は方向音痴である。


 スマホアプリの某マップ機能を見ていても、矢印の方向が自分が向いている方向を指していないと必ず迷うほどの、だ。


 方向音痴とは無縁の人から言わせると「絶対嘘だ!」と言われるのだが、私と同じタイプの人ならばきっと分かってくれると思う。


 もうすっかり見知った場所なら迷わないが、知らない土地は必ずと言っていいほど確実に迷う。

 迷わずにたどり着けたとしたら褒めまくってもらいたいほど、綺麗に迷う。


 そんな方向音痴な私だが、仕事柄──身バレするので職業は伏せる──一人であちこち移動することが多い。


 大抵がド田舎の見知らぬ場所への移動となり、電車やバスを乗り継いで目的地へと向かう。


 方向音痴だからといっても電車やバスにはちゃんと乗れるので安心してもらいたい。


 その日は山の上の建設現場へと赴くことになり、行きは建設現場へと向かうトラックなどを見かけていたため、迷うことなくスムーズに現場へ着いた。


 すべき仕事を終え、帰路に着いたのは午後六時過ぎ。


 時刻表で電車の時間を調べたら、三十分後に発車する電車があり、来る時は二十分もかからなかったので余裕だろうと、私は歩き出した。


 スマホを片手に山を下りていくと、来る時には気付いていなかった三叉路に差し掛かった。

 真っ直ぐ上ってきた覚えしかない私。

 だけど目の前には三つに分かれた道。


 迷わずスマホに目を落とした。

 某マップ先生が指し示す矢印は、右に走る道と中央の道のちょうど中間。


「どっちよ!!」


 途端に少しパニックになる私。


 生憎、現場から戻るトラックどころか、民家も走ってくる車も見当たらない。


 きっと自分が立っている位置が悪いのだろうと思い直した私は、道路のど真ん中(車道)まで移動して、マップ先生を再び見た。


 お前の行動にはなんの意味もないぞ! と言わんばかりに、やはり同じ位置を指す矢印。


「お前! なんのためのマップだよ!!」


 誰もいないことをいいことに、スマホに悪態をつく私。


 仕方がないのでなんとなくの記憶を頼りに右の道を進んでみると、たどり着いたのはどこぞの民家の前。


 電車の発車時刻まで残り二十三分。


 慌てて引き返し、中央の道へと進んだ。


 少し進むと、道と呼べそうなものはあるものの、一面広がるのは田んぼ。

 田んぼを区切るように走る畦道が唯一の道であるが、そんなのがマップに道路として表示されるのはおかしい。


「えぇ?! 左だったの?!」


 マップ先生に絶望した瞬間である。


 電車発車時刻まであと十八分。


 またもや道を引き返し、恐らく正解ルートであろう左の道を進み始めた私。

 マップ先生は相変わらずトンチンカンな方向に矢印を向けている。


 一抹の不安を抱きながらも少し足早に道を急ぐ。


 電車発車時刻まであと七分。


 左の道は途切れることなく道路が続いていて、チラホラと民家の明かりも見え、少し安堵した。


 間に合うだろうと思っていたら、目の前に現れたY字路。

 この時の私の心境は、突如目の前にラスボスの魔王が現れたような感じだったと思う。


 マップ先生はまたもや道の真ん中を指し示している……。


「なんでぇぇぇ!!」


 情けない声も出るというものだ。


 マップ先生が頼りにならない現状。

 頼れるのは見える景色だけ。

 しかし時刻は冬の午後六時過ぎ。真っ暗である。


 右の道にはチラホラと明かりが見え、街灯がポツポツと見えた。

 左の道は闇が続いていた。


 街灯がある方がきっと正解だ!

 そう思ってひたすら右の道を下りていくと、来る時にお世話になった無人駅が見えた。


 ホッとしたのもつかの間、電車がホームにいるのが見えた。


 発車時刻まであと一分。


 この電車を逃してしまうと、次の電車は午後八時半過ぎまで来ない。


「待って! 乗りますっ! 乗るから!」


 誰に言うともなくそう叫びながらとにかく走った。


 私の声が届いたのか、ギリギリ滑り込みで飛び乗った電車は、私が乗った次の瞬間にドアが閉まり、ゆっくりと発車した。


 本当に危機一髪だった、と私は思っている。


 だって、その無人駅、時々猪が出るって言うんだもん!

 そんな怖いところに一人で二時間もいられるか!


 皆さんもマップ先生に頼りきるのはたまに危険だということを念頭に置いて行動するといいと思う。


 嘘みたいだけど本当にあったお話である(笑)

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私の危機一髪体験 ロゼ @manmaruman

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