第2話

 一歳から結構とんでもない危機一髪体験をしている私だが、上に兄がいたからか、かなりお転婆な幼少期を過ごしており、母の手を焼かせていた。


 次の危機一髪体験は幼稚園の年長さん時代になる。


 親子遠足で、母を伴って出掛けたどこかの公園。


 広々とした芝生が広がり、奥の方にチラホラと遊具があり、母と一緒にお弁当を食べた後、みんなが遊具で遊んでいたため、私も例に漏れず遊具へと向かって走り出した。


 この頃になると私の記憶にもきちんと残っており、この後に起きたことの衝撃が強かったからなのか、この日のことはハッキリと覚えている。


 遊具の方へ続く道は砂利が敷かれており、何度か足を取られそうになりながらも遊具へと急いでいた私。


 もう少しでみんなと合流する! というところで、私は思い切り転んでしまう。


 派手に転んだのであちこち痛かったのだが、いかんせん遊びたい気持ちが上回っていたので、痛いのを我慢して遊具で遊ぶ友達の元へと駆けて行った。


「あ、ロゼちゃ」


 私を見つけて最初は笑顔で声を掛けて来た友達の顔が青ざめたのが分かった。


「一緒に遊ぼ!」


 私はヘラヘラと笑いながらそんなことを言った記憶がある。


 近付く私に、怯えたように後ずさりする友達。

 近付いていく毎に怯える友達を不思議に思っていたのだが、とにかく一緒に遊びたかったのでそれほど気にしてもいなかった。


「ママァァァァァァ!!!!」


 あと少しで友達にたどり着くというところで、友達は泣きながら親の元へと走り出した。


 泣き声に気付いた他の友達や、引率していた先生が一斉にこちらを見て、皆一様に固まったのを覚えている。


「ロゼちゃんっっ!!」


 硬直状態から解けた先生が駆け寄ってきて、真っ青な顔で「大丈夫?!」と尋ねてきたのだが、私はなんのことだか分からなかった。


 この時の私の状態を説明しよう。


 顔の右半分が血で染まり、その血は園服の襟をも真っ赤に染めていた。

 そして右の眉毛の上には大人の親指の先ほどの石が、まるでそこに固定されたかのように刺さっていたのだが、顔を濡らす出血はそこからではなく、右の瞼の上の方にザックリとした切り傷が出来ており、そこからの出血だったようだ。


 異様さに駆け付けて来た母も、私を見て一瞬固まった。


 きっと母も動揺していたのだろう。


 私に駆け寄ってきた母は、私の右眉上に刺さった石をポイッと取り除いてしまった。


 途端に吹き出す血。


 刺さった石がストッパーになっていたようで、そこからの出血を抑えてくれていたのだろうが、それを失ったせいで、まるで細いストローサイズのホースで水でも撒いているかのように血が吹き出した。


 それを目にして初めて自分の置かれている状況に気が付いた私。


 人間、気付かないうちが華だと言うが、その通りである。


 血が出ていることに気付いた途端、あちこち激しく痛み始める体。特に右目周辺は激痛が走っていた。


 そのまま病院に運ばれた私。


「もう少し位置がズレていたら失明していたかもしれませんね」


 言われた医者からの言葉はその当時は理解出来なかったが、今ならかなり危なかったのだと分かる。


 右瞼の上部の傷。それも石が刺さって切れた傷だったのだが、位置的にもう少しズレていたら眼球を直撃していたらしい。


 本当に危機一髪だったのだ。


 右眉上の傷は、出血の割に大したことはなく、一針だけ縫ったようだが、麻酔をされていたのであまり記憶に残っていない。


 瞼の傷は目立たないようにと丁寧に縫われたようで、今では傷跡も分からなくなっているのだが、右眉の上の傷跡だけはしっかりと残っている。

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