私の危機一髪体験

ロゼ

第1話

 お題が「危機一髪」だと聞いて、真っ先に思い浮かんだのは、自分自身のことだった。


 エッセイなどの書き方が分からないので、ノンフィクションとして、私の危機一髪体験をいくつか書こうと思う。


 私の人生初の危機一髪体験は、まだ記憶もない一歳の時だ。

 耳にタコが出来るほど親に聞かされた話なので、状況を思い浮かべることが出来るほど理解している。


 これは私が一歳になった翌日の話。


 一歳になった私は、少し歩けはするが、まだハイハイで動き回る方が多く、そのハイハイが恐ろしく早い子供だったらしい。


 目を離すとすぐにどこかに行ってしまうくらい活発な子供だったようで


「あんたからは本当に目が離せなかったわ」


 と母によく言われたものだ。


 その日は来客予定があり、母と、当時一緒に暮らしていた父方の祖母は忙しくしていたらしい。


 私はというと、五歳年上の兄と一緒に寝ており、二階の子供部屋にいた。


 起きて動き回っても大丈夫なようにと、私の腰には紐が結ばれていたらしい。


 勘違いして欲しくないのだが、決して虐待ではない。母の優しさである。


 腰に紐でも結んでいないと危ないと思われるほど、私は活発な子供だったのだ。


 まぁ、私から言わせれば「だったら一階で寝かせとけよ」という話なのだが、一階の別部屋に寝かせていたら外に出ていたということがあったそうで、外に出る危険性よりも二階に置いていて、紐で結んでいる方が安全だと考えたのだと思う。


 一種の優しさなのだが、この優しさが裏目に出てしまう。


 苦しくないようにと緩く結ばれていたのだろう腰紐は、あっさりと解けてしまったようだ。


 泣いたら分かるようにと少し開けられていた扉から廊下に出た私は、そのまま階段へと向かって、そこから転げ落ちた。


 我が家の造りは少し変わっており、階段の真下は五十センチほどの四角い空間があり、その先には当時ガラス戸があったそうだ。


 ガラス戸の先にはリビングがあった。


 階段を落下した私は、頭からガラス戸に突っ込んで止まった。


 リビングで来客準備をしていた母は、突然聞こえてきた『ドドドドドド』という落下音に驚き、それでも「まさか!」と動こうとしたそうなのだが、その直後、ガラスの割れる音と共にガラス戸を突き破って登場した私に、腰を抜かしそうになるほど驚いたそうだ。


 当の私はというと、突然の出来事に驚いたのか、ガラス戸からリビングへと頭だけ出した状態で硬直していたらしい。


 我に返り、慌てて私に駆け寄った母はそこで血の気が引いたそうだ。


 私の首の真下には、割れて鋭利に尖ったガラス。

 少しでも首を落としていればグサリと刺さっていただろう状況だったのだ。


「ほんと、一、二センチしかなかったわよ! 本当に危なかったんだから!」


 自分の手も傷だらけにしながら私をガラス戸から救い出した母。


 これで私の危機一髪は終了した、とお思いだろうがそうは問屋が卸さない。


 私の受難はまだ続く。


 頭にガラスが刺さりまくっていた私は、即座に近所の病院へと連れていかれた。


 救急車でも呼べばまた違ったのだろうが、運ばれたのは小さな町医者で、 十分な設備もなかったのだろう。


「まだ小さいので麻酔ができません」


 医者のその一言で、私は麻酔なしで治療を受けることとなった。


「お母さんは足を押さえていてください!」


 看護師に言われるまま、私の足を押さえた母。

 肩と頭は看護師に押さえられ、大人三人がかりで拘束された私は、母曰く


「もう、聞いているのも辛いほど泣き叫んでて、ごめんねって涙が止まらなかったわ」


 というほど泣き叫んだそうだ。


 頭に刺さったガラス片を丁寧に取り除き、麻酔なしで頭を十数箇所縫われた。


 気を失ってもおかしくない状況だったし、その方が楽だったのだろうが、私は最後まで気を失うことはなかったそうだ。


 覚えていなくて本当に良かったと思う。


 まぁ、これが私の人生初の危機一髪体験である。

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