第3話 エピローグ

残念なことに岩屋さんは、搬送先の病院でも心拍再開せず永眠されたとのことだった。予想通り「クモ膜下出血」だったとのこと。突然にご主人を目の前で失われた奥様のご心痛はいかほどだろうか。


転送から2か月ほど経ったころだろうか。転送先のA病院から髙田さんの診療情報が届いた。確認すると、本当に「危機一髪」だったようだ。診断名は『急性B型肝炎』。


急性肝炎の中でも、肝細胞の破壊が極めて急速に起こり、救命の手立てとしては「肝移植」くらいしかない最重症の肝炎を「劇症肝炎」と呼ぶが、「劇症肝炎」を起こす頻度が最も多いウイルス肝炎である。


髙田さんの搬送時の血液データを見ると、肝臓が高度にダメージを受けていて、肝臓の機能はほとんど失われた状態となっていた。劇症肝炎に移行する確率を計算する計算式でも、「劇症肝炎への移行リスク」が極めて高い状態だったようだ。先生方の懸命の治療で、何とか劇症肝炎への移行は防ぐことができ、先日無事に退院された、との報告であった。


髙田さんの件は、高田さんの「命」だけでなく、私の「医師免許」と「医師としての人生」にとっても、「危機一髪」であった。ちょっとの違和感に気づけるかどうかが命を左右する、医師の仕事は時に恐ろしいものであることを痛感した。

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What A Day!(なんて日だ!) 川線・山線 @Toh-yan

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