第3話 週末ホームレスはかけがえのない青春

六、若いホームレス


 彼をGとしましょう。Gは秋葉原にいた他のホームレスの出自とは異なり、会社を潰してホームレスになった男です。友人たちの家を転々としながら身を隠し、アテがなくなるとホームレスをしていると言っていました。身なりも普通の人間とそんなに変わりません。

 現在はネットカフェやリサイクルショップもありますので、ホームレスといっても見た目もそれなりな人が多いです(それがゆえに問題もあるのとは思います)が、当時はホームレスはホームレスという感じの身なりの人ばかりでした。そんな集団の中で彼は、得意の話術でホームレス社会にうまく溶け込み、人気者にすらなっていました。Gは、相手がどういう話を望んでいるのかわかるタイプの人間で、しかもそれを正確に提供できるのです。

 私は持っている酒をGに渡して話してみることにしました。しかし残念ながら、私ような狂犬に対応できるレベルの話は持っていないようで、話があまり盛り上がりませんでした。


 日付を超え、疲れ切った私は、他のホームレスたちと話ながら酒を飲んで寒さをしのいでいると、無意識でしょう、彼はある大人気アニメの曲を口ずさみました。私はそこに食いついてしまいました。そう。そのアニメは、大好きなスロットになっていたのです。

 結局それがもとでGはいわゆるアニメオタクだとわかり、Gは私にオタク道を叩きこんできました。最初は(当時の)オタクに対する気持ち悪さに、ドン引きしていたのですが、話の上手い彼から出てくるトークにハマり、気がつくと私は平日にアニメを見るようになりました。そして、土日になれば、彼と秋葉原から浅草橋方向でホームレスをしながら、アニメやゲームの話をするようになったのです。


 かくしてこのGは、私のホームレス生活を飽きさせない要員どころか、私を二次創作作家へと導くキーパーソンになりました。さらにオチとして、その二年後には、Gと私は同人ゴロ(※お金儲けのために二次創作でする良くない人)になり、Gは普通の生活ができるようなるまでに社会復帰したのです。


七、日曜日 


 話を戻しますと、初見のGと深夜まで話してから、私は公園で段ボールにくるまって寝ました。野宿していると、いたずらや警察が起こしにくることもあり安眠妨害されるのですが、この日は無事に昼近くまで寝られました。Gが私を守りながら寝てたようです。(余談ですが、Gは脂肪がいっぱいな人ので、週末ホームレスをしている間、臭くないときは抱きついて寝たりもしてました。恋愛感情からではなく、ただの防寒着としてですけど)


 さて、目を覚めるとホームレスたちはすっかりいなくなってました。私だけがホームレス状態です。借りた段ボールと新聞紙を畳んで、ベンチの下に置いてから、また歩いて後楽園へと向かいます。朝食は夜に分けてもらった廃棄品のサンドイッチです。天気も良く、神田川沿いで食べる廃棄品のサンドイッチは染みました。私はちゃんと生きているなあという実感が持てて、幸せになれました。思わず、昨日連絡を入れなかった彼氏に携帯メールで、「生きるって素晴らしい!」みたいな、気色の悪い朝ポエムを送りつけてしまいます。


 本日もお馬ちゃんと戯れます。この日がGIという大きなレースがありまして、人も多いです。いつものように四階に行き、新聞で座る場所を確保してから、競馬予想し「研究」を開きます。前日Gと話し込みすぎて、まったく予想をしていなかったので、パドック映像を見ながら、及川先生の予想を参考に馬券を買っていきます。

 結局メインのGⅠで大勝しまして、土曜日の負け分は余裕で返ってきました。二日風呂どころか着替えもせずに野宿してボロボロなりながらの一撃三十数万円のリターンには、大変興奮しました。及川先生、ありがとうございました。

 

 懐に余裕ができると、急に眠くなってきました。体も汚くて臭くなり、新米ホームレスとしては限界に達したのです。

 私は自分の匂いを気にしながらタクシーを捕まえ、自宅へと戻ります。週末はホームレスをしても、帰りはタクシーなのはどうかと思いますが、この日からこういった生活サイクルを、一年以上送っていきます。


 彼氏とは別れ、Gとオタクへの道を歩み、週末はギャンブルをしてホームレス生活を送る。今こうして振り返りますと、私は二十代前半の女子として、最高の人生を歩んだんだなと思います。ですが、自分の娘にはまっとうな道を歩んで欲しいとも思っております。皆様におかれましても、くれぐれも真似をしないよう、よろしくお願いいたします。


(終わります)

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(復刻版)今は専業主婦だけど、週末はホームレスをしていた話 犀川 よう @eowpihrfoiw

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