第2話 厳しいホームレス社会と私の土曜日の過ごし方について

四、厳しいホームレス社会


 電気ガス水道のない生活で寝床もない、都心のホームレスの生活はかなり大変です。河川敷や都心から離れた大きな公園で寝床があればまだしも、煌々とした街中にある小さな公園や路上で寝るというのは至難の業です。


 まず第一に治安面。私も週末ホームレスをして何度か遭遇したのですが、夜になると、酔っ払いや若者たちがホームレスを面白がって攻撃してくることがあり、安心して熟睡できません。都会の深夜は橋の下や公園でも必ず誰かいます。彼らを通して、安心して眠ることのありがたさを知りました。夜は点々と移動としながら、昼に寝るホームレスの方も結構いました。

 次に環境面。冬は寒いし、夏は暑いです。今回のお話は冬ですが、夏は正直無理でした。少なくとも土日連日の野宿は耐えられるものではありません。絶対にオススメいたしません。

 三つめは人間関係。それぞれがそれぞれの理由でホームレスになっているのですが、一人では生きていけません。なんらかのコミュニティーに属している必要があり、人間関係に絶望してホームレスになった人は、過去にいた社会よりも厳しいようでした。酒盛りを通じて、人間関係を深められると思った当時の自分を、今は恥じております。

 まったく自由もなく、不便さと身の恐怖を感じながら寝るというのは、神経がすり減ります。慣れだという人もいましたが、当時二十代前半の私には想像がつきませんでした。


 とはいうものの、当時の私はそんなことは理解しておらず、バーボンやカップ酒を飲み続け、新聞紙を服の中に入れて暖をとってました。段ボールと新聞紙はマストアイテムです。階層的に中堅どころのホームレスのおじいさんに借りて公園で座り込んで飲む酒は最高ではありましたけど、そこにいたホームレスの方々がみんな好意的なわけではありせんでした。いきなり来た若い女に戸惑うのは当然です。


五、私の土曜日の過ごし方について


 始発に近づくと人々が動き出します。さすがに眠くなりウトウトしてしまいます。「寝たらやられるぞ!」と思い頑張ってはみましたが、結局、昼前までガーガーと寝てしまいました。よく身ぐるみ剝がされたり襲われなかったと思います。

 さて、すっかりお昼になってしまいましたが、ホームレスの方たちとはお別れして、水道橋のウインズ後楽園 JRAまで行きます。エスカレータで四階に上がり、空いている床に、昨夜もらった新聞紙を敷いて座れる場所を確保し、売店でホットドックと牛乳を買って、午後のレースに挑むのです。本当は午前中の新馬戦や未勝利戦が好きなのですが、遅刻(?)してしまったので仕方ありません。

 とりあえず、及川先生の情報を元に、流していきます。1レースあたり一万円くらいでしょうか。新聞に載ってない他会場はモニターで放映されるパドックと直感だけで賭けていきます。三会場あるので結構忙しいです。会社で働くよりテキパキと動いて、予想と馬券購入をしていかないといけません。

 この日のJRAでは、昨日のパチスロで勝った分の倍くらい飛びました。馬が私の予想通り走らないとお金が減っていきます。最終12Rで取り返そうとして、また穴を開けるという、駄目パターンでフィニッシュです。


 最終レースが終わり、夕方五時を過ぎると、一階で夜の大井競馬のレースに挑みます。そうです。ここは朝から晩までお馬ちゃんと戯れることができる、楽園のような施設なのです。大井競馬用の新聞と買い、煮込みとビールをやりながら、また一万円くらいを投入します。最終的に勝てばいいのです。負けるというのは辞めたときに決まります。つまり、辞めないかぎり、私は負けてはいないのです!(同じことを言っている)

 私はこの超絶ド根性理論でオヤジたちと同じように怒声を上げながら夜まで競馬を楽しみました。結果は、夜九時までやって被害額が倍になりました! なんだよ、私の予想通りに走れよ!(怒)


 かなり疲れましたが、最後のイベントは水道橋駅近くのパチスロです。運動会でいうところのクールダウンです。一日の疲れをスロットで癒すわけです。爆音垂れ流しながらピカピカと光るスロットは、私の中ではエステ扱いなのです。

 残念ながら、こちらも大惨敗して終わります。本日はまったくいいところがありませんでした。特にスロットは千円札飲み込まれ放題で、天井前にREG(小当たり)とか、ブチギレ案件です。遊戯台を蹴るわけにはいきませんので、知り合いの店員に「なんだよコレ!」と怒鳴りますが、店員はニヤニヤするだけで流されます。


 二十万円が数百円になってしまいましたので、コンビニでお金を降ろし、明日の競馬予想紙「研究」と酒を買って出ます。

 疲労困憊になっていますから、家に帰ろうと思ったのですが、昨日のホームレス生活に少しだけ未練があり、また秋葉原へと歩いていきます。昨日から着替えも化粧直しもしておりません。ですが、やっぱり家に帰るよりは、秋葉原に行かなければならないという気持ちになっていました。私の生きる原動力は破滅願望なので、この状況で安寧を求めるのは何か違うと思ったのです。


 私は重過ぎる足で公園までやってくると、昨日はいなかった若いホームレスがいました。昨日のホームレスの方たちとは違う空気をまとっていて、私の破滅センサーが「コイツは絶対おもろいヤツだ!」と反応しました。

 破滅センサーは正常に機能して、彼は面白いヤツでした。私は彼と出会ってしまったおかげで、一年近く、週末ホームレス生活に漬かってしまうことになります。


(続ける気はある)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る