キョンシー男子と道士見習いの少女

雨玖(ウク)

第1話  少女とキョンシーの出逢い

 ****注意****


 ●当作品はフィクションです。

実在の人物、団体などは一切関係ありません。

キョンシー及び道士について捏造設定等が含まれています。

 

 * * * * * * * * * *


 ☆登場人物☆


紫苑(しおん):

本作の主人公。

ごく一般の女子高生だが、明貴と出会ったことで見習い道士となり日常が一変する。



明貴(めいき):

もう一人の主人公。正体はキョンシー。

蔵に仕舞われていた勾玉に封印されていたが、紫苑が封印を解いたことで復活する。



 * * * * * * * * * *


 夜の公園に蠢く三つの人影。

一つは小柄で、年端もいかぬ少女のもの。

少女は残り二つのうちの一つ、相手の男と相対してた。伸びてくる腕をぎりぎりで躱す少女。

緊張感を伝う汗が顔をつぅーと流れる。

「どいてろ」

残り一つの影の正体である青年が、少女の襟首をぐいっと掴み後ろに後退させる。

後ろに追いやられた少女は転びはしなかったが派手に尻餅をついてしまう。

明貴めいき 犬や猫じゃないんだから、もう少し丁寧にやってよ」

少女は後ろに追いやった青年に文句を述べる。

明貴と呼ばれた青年は、そんなこと言える状況か?と少女と会話のやり取りをしながら相手と攻防を繰り広げている。

二人の男が愛しい人を巡って戦ってる…、なんてロマンチックなものではない。

そも一人の人を巡って争うこと自体不穏であり穏やかなことでは無いが、現在進行してるそれは、さらに不穏で緊迫した状況である。

後ろにいる少女を守る青年は殺気を纏い伸びてくる腕を払い退け、手足で襲い掛かってくる相手を反撃し、また伸びてきた手足を払い退け反撃を繰り返している。

伸びてきた殺意の腕を取り捻り上げると、青年は後ろに一歩下がった後、相手の後頭部を思いっきり蹴り飛ばす。

蹴られた相手は数メートル先まで吹っ飛んだ。

相手は当たりどころが悪ければ即死、あるいは脳震盪のうしんとう引き起こす。

どちらにしろ無事でいられるものではないが、吹っ飛ばされ相手はムクリと立ち上がると何事も無かったかのように、怯む事なく手を伸ばし襲ってくる。

そんな相手に青年は不気味がる様子は無く、怯んだり驚くことも無く冷静である。

青年が相対してる相手は“人間”では無いのだから驚くことも無い。

もっとも、そんな相手と戦い精神が鋼なのかと思うこの青年も“人間”では無い。

人外同士の戦いがいまこの場所で繰り広げられている。

一見青年の方が押され不利に見える状態だが、何のことは無い。

少女は青年が勝つと分かってるし信じている。

青年は襲い来る爪を避け、片腕で相手の両手を捕まえるともう片方の手で相手の腕を突き上げる。骨を砕く鈍い音が鳴り、相手を地面に押し付けるように倒す。

倒れた相手の腕を捻り上げ完全に押さえ込み身動きが取れなくなったとこで「紫苑しおん」と少女を呼ぶ。

青年に呼ばれた紫苑は懐から一枚の札を取り出すと相手の額にぺたりと貼り付ける。

札を貼られた相手はもがき苦しむ声を上げ動かなくなると跡形も無く消えた。

紫苑は一呼吸整えると「ありがとう」と明貴にお礼を言う。

明貴はすくっと立ち上がり、土埃を軽く叩き落とし乱れた服を整えながら尋ねる。

「怪我は?」

「大丈夫」

明貴は下から上にかけて紫苑の全体を確認する。

一戦交え動き回ったので法衣が少し乱れ土も付いているが、怪我は一切していない。

後ろに追いやったとき紫苑は尻餅をついたが反動で掌が傷付いていないかと思ったが目視するにそれも無い。

さっきまで戦っていた相手はキョンシーという妖怪で、爪には毒素が含まれておりキョンシーの武器でもある。

人間がその爪にかかればひとたまりもない。

少々荒かったとこれでも反省しているが相手の爪にかかるよりはマシだろう。

文句でも言うなら鈍臭いんだ、と皮肉の一言を言うつもりでいたが、紫苑はありがとうとお礼を伝えただけだ。

明貴は「そうか」と一言添える。

自分の無力さに肩を落とす紫苑。さっきまでの勢いはどうした?今更だろ、と並び立てるが「最初に比べればマシになってる」と最後に付け加える。

「そうだけど…」

「帰るぞ」

ひらりと身をひるがえす明貴に置いてかれないよう紫苑もその後に続く。

思えばこの二人の関係は奇妙なもので、人間(少女)と人外いうのもだが、見習い道士にキョンシーという主従を組んでいる。

そんなキョンシーの明貴と、道士見習い紫苑の出会いは今から半年前…。

夏休みに入ってすぐの暑い日であった…。



一、


【次のニュースです。

 

昨夜未明、⚫︎⚫︎県⚫︎⚫︎市の公園に女性の遺体が発見されました。

女性の首には鋭い鋭利なもので刺された跡が二箇所あり、女性の体からは大量の血が抜き取られていました。

先週別の場所で起きた事件と同じことから警察は同一犯による犯行とみて捜査を進めています。


テレビで流れるニュースを聞きながら、紫苑は呟いた。

「変な事件だな。それにうちからそんな離れてないし」

嫌だなぁ、犯人早く捕まってほしいと思いながら、紫苑は家事をこなしていた。

そこそこ大きな日本家屋の一軒家に住んでいるという事以外は至ってごく普通の一般市民の生活を送っている紫苑。

 2歳の時に両親を亡くし、一人っ子であったため兄弟はおらず母方の祖母の家に引き取られ育てられた。

 その祖母も7つの頃に亡くなってしまったが、母の妹である叔母が実家に戻り一緒に暮らし始めた。

一緒に暮らし始めたといったが、祖母が存命中だった頃からちょくちょく家に帰ってきてはいた。

幼かった紫苑の遊び相手をしたり、勉強で分からないことがあれば教えて貰ったりしていた。

叔母とは一回りほどしか歳が離れていないため年の離れた姉妹あるいは、友人のような関係で仲は良好である。

 しかし紫苑が高校受験を終えた頃から、家にいることが少なく帰って来ることが殆ど無い。

だから今この家には紫苑が一人で住んでいる。

 住んでる家は元々二人で暮らすには広く、三、四人、…いや六人増えたとしても受け入れられる広さがある。

1人だと余計広く感じてしまう。

生きていくにあたって稼ぐのは当たり前だろう私を養うため稼いでいるので我儘は言えない。

「暑っつー…」

蒸し蒸しとする気温に照らす太陽を見つめ頬を伝う汗を拭う。

掃き掃除をしていた紫苑は、ふと庭端にある蔵に目を止める。

 ちょうど夏休みだし普段手を付けないところを掃除をしようと思い至り何故か気合を入れて掃除道具を手に蔵に向かった。

小さい頃、祖母が生きていたころは、蔵には近付いてはならないと散々念を押された。

 これが後に自分の人生や生活が変わる事になるなど想像すらしていなかった。



二、


重い扉に手をつき力を込め開けると中から埃が漏れ出す。

「ゴホゴホッ、埃っぽ、ゴホッ」

普段手を付けないだけあって扉を開けただけで埃が舞うのだ、さらに中は暗く湿っぽい。カビが生えてないよね?などと思いながら紫苑は蔵の中に足を踏み入れる。

 蔵に入ると中は閉め切っていて換気もしてないから暑いはずなのに、思っていたのとは逆になぜか涼しかった。

不思議に思いながらさらに奥に進むと、ギシ、ギシッと板の軋む音が鳴る。

とりあえず中の物を外に出そうと早速取り掛かり物を次々外に運び出していく。作業は順調に進み下の段に差し掛かり箱を取り出そうとするとその箱は予想以上に重かった。一体何が入ってるの!?と思いながら箱を引っ張り出す。

 その弾みで隣の棚に体をぶつけてしまい上にあった箱が落ちてしまう。「あっ」と声を上げた時には遅く、箱は壁際の方に飛んでいき、入っていた中身がパーンッと音を立て割れてしまった。

「え、嘘っ!?」

箱の中身は古びた勾玉であった。

蔵に仕舞われてるくらいだ、価値のあるものか、大事な物のはずなのに割ってしまうなんて!と思った次の瞬間、割れた勾玉から強い光が解き放たれる。

強すぎる光に目が眩み紫苑は腕を顔の前にかざし視界を覆う。光が弱まり恐る恐る目を開くと目の前に見慣れない青年が立っていた。

紫苑は目をぱちくりさせ、目の前に現れた青年をぽかんと見つめる。

その青年は端正で気品のある顔立ちと凛とした佇まいをしており、腰の位置まで伸びた艶やかな長い黒髪にドラマで見たことのある古代中国の服装を纏った姿をしていた。

青年の洗練された姿に紫苑は息を飲みつい呼吸を忘れる。

これが街中で見掛ければ誰もが目を奪われる容姿にドラマの撮影かな?と思うが、生憎現れたのは自分家の蔵の中、しかも目の前に突然だ。

いっぺんに来た驚きに紫苑は「綺麗……」と感想をこぼす。

青年の眉がピクリと動くと瞼をゆっくり開きその眼に光を映す。

開かれた瞳もまた美しく夜の色を帯びていた。

「お前、か?」


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キョンシー男子と道士見習いの少女 雨玖(ウク) @asagiume

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