第19話 補足

ズドーン。バババババッ。スパーン。ドッドッドッドッ・・・・


賽の河原の河川敷一帯はもはや合戦場と言わんばかりの大乱闘に発展している。しかし、その一方それぞれの陣を引いた場所は隆起し、イベント会場だったものは大地の地形ごとかわり河川敷に大きな桟敷席をつくり上げた。桟敷席から見る合戦は一種の将棋のような両軍の采配を楽しむ娯楽であった。


エンターテインメント遊戯のように観戦し、合戦の勝敗をかける賭博場として役割を担った。


でも、主催者からすれば大きな目論見がある。指揮能力が高い亡者や戦闘力が高い亡者を見つけることが出来るからである。それだけではない、亡者から変容する者が現れるからである。亡者の本能・・・亡者の本性が戦いの中で覚醒をするのである。


生前、戦争の戦火の中で無駄死にをした魂。理不尽に蹂躙された魂。拷問や凌辱されて狂人になった魂。安楽死というなの捕虜となりモルモットのように扱われた人権を与えられなかった魂。戦争でむやみに殺しを楽しむ享楽に落ちた魂。・・・・穢れた魂が宿った亡者は戦いの中でより存在変化するごろく変貌するのだ。


自分の生き方を信じ、信念が趣味の如く朝から晩、死ぬまでその道を貫き極めた先に、その筋の神とよばれるに至ることができる先駆者の魂。


秀才・天才・オールマイティーと呼ばれながらもニヤニヤと批評するだけで積極的には動かず、興味が薄いことにはかかわらない傍観者の魂。


都合のいいことしか興味のなく、権力・資金力にモノを言わせるだけの暴君の魂。


人が何とかしてくれると泥を被りながらも信じている愚者たちの魂。


生まれた場所、容姿などを貶められ卑下され疎まれ憎まれ妬まれ虐められ・・・挙句悪いことがあれば憎まれ辱められる殺される者・・・・


人生に悔いなく生きることが天国へ行く道。人生において罪を犯した者は地獄に・・・


自然の猛威や不慮の事故、時代という変革に巻き込まれる魂はどこに向かうのか・・・


天国にも地獄にも行けない、未練や執着を持った魂はどこに向かうのか。


進化する仮想世界の住民の魂の行方・・・ダイブした者達と感情を通わすMMORPGに根ずく人工的につくられたNPCの人格にも魂は存在するならば、この仮想空間以外でもNPCの魂は輪廻転生するのか。


魂の強度が上がる。魂が変貌する。・・・


あくまでもMMORPGの亡者となり死の世界への旅路における通り道の賽の河原。でもそこは妖のための幽世という世界。仮想空間におけるシナリオ・物語中の場所。コールドスリープした者達の夢や希望に知識を補足した世界を新たに創造する場所である。


現世が平和であれば無垢なる魂なら死の旅路で極楽浄土に迷いなくつくことができるだろう。しかし、どんな時代でも争いごとはなくならないことは常である。だからこそ、賽の河原に天国側も道しるべが必要であり、旅路の途中だからこそ選別も必要である。選別しなければ煉獄が煉獄ではなくなり天国も現世のように地獄と化す可能性をはらむからだ。


そして、この地に留まってしまった聖女の影響でこの幽世の賽の河原が一変したことにより、スカウトが激化してしまった。


地獄に行くしかないような狂人が治療を施され道理を諭され心を浄化されれば悟りの境地にいたる者さえ出てくる。ましてや、先兵として賽の河原に常駐していた鬼や妖どもはすぐに聖女に感化されてしまった。


そのせいで徳が高く天国に行ける者以外でも無垢なる魂となり悟りをえて解脱して天国以外にも行けるようになってしまったのだ。


例えば、その無垢なる力を持った魂が地獄に行き、地獄と呼ぶことができないように変容したとしたら。戦火を呼ぶ地獄の使者ではなく、平和を持たらす天の国側の陣営からの天の使者として地獄にリノベーションを起こす存在になりかけ地獄のアイデンティティを揺らがす事態になるのだ。


その原因となった聖女の存在は強烈に危険視されたのである。しかし、すでに聖女に感化された妖や亡者そして一部の天国の先兵に煉獄の悪魔も聖女側についてしまったのだ。


この事態を危惧した天国側と地獄側、そして幽世側のスカウトという形でこの死の窓口である賽の河原における魂の獲得の激化に繋がったのだ。


だがしかし、この賽の河原を平定した聖女は留まることは知らず、現世の地上で戦争が起きれば賽の河原でイベントを繰り広げ、天国と地獄にスポンサーとして募り幽世に富を分配させるにまで至る。


だからこそ、幽世の聖女を存在を消そうとするものは誰一人いない。そして、天国や地獄からも現世に争いがなくならいことが判っているからこそ、この地の聖女の活躍を期待するのだ。


光輝く神の僕となる魂を天国に。罪に塗れた悪しき魂を煉獄に。極悪非道な地に落ちた魂でさえ変貌させる力を持つ聖女。消滅の危機に瀕した妖の幽世に繁栄をもたらす存在がこの地に英知をもたらす。


それは運命から逸脱した異世界転生した魂でも。心優しい聖女は死んでも心優しい聖女であろうとしたから。幼子が石積みして壊されてもそれでも石積みを続けるように・・・

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