第8話

 どこかに通じているのかもしれない。


 風穴のような場所なのだろうか?

 

 だとしたらがっかりだが、声も聞こえなくなったし、いつまでもじっとしていてもしょうがない。


 気づいたら僕は歩き始めていた。


 ただ歩くのも頼りなく、僕は何か頼りになるものを探した。


 両手をバタバタさせながらしばらくウロウロしていると、何かが指の先に触れる。

 

 壁だ。僕は身体を壁にぴったり寄せた。なんとなくこうすると落ち着くのだ。


 両手を壁につけ、這いずりまわるヤモリのような恰好で僕はひたすら前に進んだ。


「本当にいいんですか? そのままで行く覚悟はあるんですか?」


 僕は返事をしなかった。する必要がない。


「もう堕ちるだけだよ。先はないんだよ」


 うるさい! といっても私は意味のある言葉を発したわけででではない。何か小動物を捻った時のような叫びを上げただけだ。


 これでも伝わるだろう。伝わればいいのだ。


 しばらく進むと声も聞こえなくなった。静かだ。満足だ。


 壁の質感がだんだん変わってきて、ブヨブヨブヨブヨ寒天のようだ。生暖かくて気持ち良い。ここいいると 落ち着く。落ち着くんだ。


 進むんだ。まだだ。


「だんだん狭くなってくる」


 落ち着く。進。落ち着いていく。行くんだ。


 前に明かりい。あれに向かっていくんだ。進。


 ガシャッ キャキャーンッ 何かが崩れ高い金属音。


 私は畳の上に降り立った。どこだ? ここはどこから出てきたんだ私は?


 どこかの誰かの家。和風の間取り。


俺は見下ろしている。


 ズキン、と背中脇が痛む。畳に血の滴り跡が散っている。長くないのか?


 誰かいないだろうか? 会いたい。見たい。


 思い出した!


 ここはさっき追いかけた少年の家! 仏間?


「誰か!」


 甲高い声が鳴る。金属を引っ掻くようなゾワゾワする音。


 自分の声だ!


 俺は飛んだ。灰や線香やら、何かの金属。輝く香炉? なにくぁわからないものが畳に飛び散る。


 なんだ? からだが小さくなっている! 俺はひょこひょこ歩く。


 俺はふと、庭に面しているガラス戸を見た。


 薄く映った猿が間抜けな顔でこっちを見ている。


 猿には眼が三つあった。


                                                   

                           了

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貪り 八花月 @hatikagetu

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