第7話

気が付くと僕は柔かいものの上に寝ていた。


全て夢だったのか?


そんな思いが脳裏を過ぎる。真っ暗な中、手を伸ばすのだが何にも当たらない。少しバタバタと動かしてみても同じことだった。


 違う。やっぱり夢じゃなかったんだ!


 私は恐る恐る立ち上がった。


『ここは異界なのか』


 ただの穴の底ではない気がする。あれだけの距離を落ちてきたのに生きているのである。


 なにかしら尋常ではない力が働いているに違いない。


「誰かいないのか」


 比較的大声で呼ばわってみるが返事はなかった。


 異界に来れたのは喜ばしいが放っておかれても困るのだ。


 何か起こるなり誰か出てくるなりしてほしい。


 僕は手探りで壁を探したが見つからなかった。おっかなびっくり支え無しで立ち上がる。


 上を見てみたが明かり一つ見えない。


 温度は寒すぎず暑すぎずちょうど良い。


 たちまち死ぬということはなさそうだが、食べ物がなければ早晩人生終了であろう。


「誰か!」


 再び大声を出してみると、

「ああ……また来てしまったの」

 どことなく哀調を帯びた声で返事らしきものがきた。


 掠れるような覚束ない声で男か女か判別しづらい。


 甘くもなく冷たくもなく。さりとて感情を感じないというわけでもなく。


 否定を重ねることでしか表現しにくい、伝えるのが難しい声音であった。


「来てはいけないと言ったのに」

「ここに来たのは初めてだ!」 


 大声で応じる。心外だ。少々トゲのある言い方になった。


 しばらくして、何かを擦るような液体の泡立つような奇妙な音が聞こえてくる。


 ……どうやら謎の声の主は啜り泣いているようだった。気分を害してしまったのだろうか?


 しかしこちらのことを心配しているらしい様子は伝わってくる。


 ということは敵ではない。


「ここは異界なのか?」


 問うてみたが返事はない。


 考えてみたら、自分の問い掛けはちょっとおかしかった。


 異界の住人は自分をそれだと認識しているのだろうか?


「ここにはもう、来ないほうがいいと言ったのですよ」


 やがて声の主は、質問は無視して同じ主張を繰り返した。


「ここに来るのは初めてだと言ってるじゃないか!」


 ふと思い直し、

「誰かと間違えてるのか?」


 聞き直してみたが、答えはない。


 ただ、どこかに風の吹き抜けるような音が響いただけである。

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