第4話 この子が?

 そういえば、この子、どこかで聞いたことあるような声をしている気がするんだよな。


 結構最近聞いたような。俺が考えこんでいると、少女に声をかけられた。


「うーん……。お兄さん、秘密守れる感じの人間?」


「それは、まぁ。口は堅いほうだと思うよ」


 単に無口なほうというのもそうなのだが。ちなみに友人はちゃんといるからな。同期にも数人いるし、後輩にも仲がいい人はいるから。


「ふーん。それなら大丈夫か。ほぼ関係者みたいなものだし言ってもいいよね」


「何を?」


 関係者? 俺とこの子が?


「自己紹介。私の名前は沢渡 彩。またの名を……四迷アリス。笹島さんは私のマネージャー」


 マジか……って驚くのはナンセンスだな。そうとう忙しそうにしている美佳を見る限り、そこそこ有名な人のマネージャーな事はわかってた。


 それでも少し驚いた。思ったよりも、規模が大きい。まさか日本トップクラスのVtuberのマネージャーだとは。


「へぇ。君が。ずいぶんイメージと違うんだな」


 さすがは人気配信者といえる。公私はしっかり分けられているようだ。


「私は身バレ対策しっかりしてるから」


「さすがだな。それで、今日はどうしてここに来たんだ?」


 俺と飲みの話をしていたってことはおそらく美佳はこの子、沢渡さんとは予定を入れていないはずだ。


 それでもここにきたということは何か急用があるに違いない。


「うーん……。『次の企画の相談にのって欲しいな!』って感じ」


 なぜここで四迷アリス的なしゃべり方をする? それは本当に必要か?


「はっ! 彩ちゃん!?」


「おおう!?」


 美佳が急に目覚めて起き上がってきた。起き上がった美佳と目が合う。そして、美佳は顎に手を当てて、考え込んでしまった。


「えーっと、ごめん、酔った勢いで膝枕なんて頼んじゃって……もうすこし、もうすこしいいかな?」


「こほん。『私もいるよ! 忘れないでほしーなー?』」


「はっ!? 彩ちゃん!? ごめん、見苦しいところを見せたね。それで、要件は何かな?」


 急に美佳がきりっとした顔つきになって姿勢を正した。なるほど、美佳はこの四迷アリスの声を聴くと仕事モードに入るわけか。


「次の企画についての相談」


「いつの企画だったっけ? 来週の木曜日と土曜日は企画決まってないよね」


「明日」


「は!? 明日配信休みじゃなかった!?」


 これ、俺聞かない方がよさそうだな。なんか明日の企画を今から考えるとかいうすげぇ話を聞いてしまったが。


「ごめん、怜志くん、少しまっててもらってもいい? 少し会議が……」


「あ、うん」


 そういうなり、美佳たちは他の部屋にいってしまった。


 ……どうしよ、長くなるかな。帰るっていえばよかったかもしれない。終電が……。


 まぁ、いいか。別に2駅分くらいなら歩いて帰れる。


 スマホを見ながら持ってきた酒を飲み、時間をつぶすこと1時間。


「お待たせ……ごめん、もう少しだけまってて。この子家まで送ってくるから」


「『私は1人でも帰れるんだけど!』」


「だめです。補導されるでしょ!」


 この人たち、ちょっと面白いな。


「そういうわけだから、少し待ってて。ワインとか飲んでてもいいから」


「わかったー」


 ワイン飲んでいいってマジ? あの超高そうなワイン? あんまり味わからなかったけどいいって言われたら高そうなやつは飲みたくなるよな……。


 まぁ、申し訳ないから飲まないんだけど。


 誘惑に負けないように、俺は自分でもってきた酒を飲み続ける。


 ……少し酔ってきたかな。


 酔いが回りはじめて20分ほど。美佳が帰ってきた。


「戻ったよ~」


「ああ、お帰り」


 俺は酔うとすごく眠くなるタイプだからか、今、すでにすごく眠たい。この後美佳と共にさらにお酒を飲もうものなら帰れなくなってしまう。


「あれ、ワイン、飲んでないの? 飲んでよかったのに」


「そんな高そうなワイン、1人でいただけないよ」


 軽く調べてみたけど10万くらいのワインだぞ。勝手にいただけるかよ!


「そう。じゃあ、一緒に飲もうか」


「お、おう」


 笑顔でそう言われちゃ断れないな。急に仕事の話が入って大変そうだったし、少しでも楽しんでもらおう。


「ほら、飲んで飲んで」


「美佳もね」


 彼女がグラスにワインをついでくれる。ワインって入れ方とかないのかね。まぁ俺はよくわからんけども。


「それじゃ、乾杯!」


「乾杯」


 俺これ以上飲むとまずいけどなぁ。まぁ、美佳が楽しそうだし、帰る方法は後で探そうか。


「膝枕! もう一回! ねぇ、いいでしょ!」


「はいはい、どうぞ」


 ソファに先に腰を掛け、彼女を誘う。俺が眠気最大になる前に美佳がこんなに酔うとは思わなかった。ほんとに酒弱いな。


「寝付けない時もあったけど、ここならすっきり寝れそう!」


「それはよかった。ゆっくりお休み」


 すこし、頭をなでてあげると、寝息を立て始める美佳。


 ……一瞬で寝るじゃん。


 しかし、俺もそろそろ起きてられないな。


「お休み、起きたら、起こしてくれ」


 ソファに腰を掛け、膝に美佳の頭を乗せたまま、俺も夢の世界へと旅立った。

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大人気配信者……の、マネージャーが死ぬほど俺を溺愛してくる件 ニア・アルミナート @rrksop

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