第2話 策士な艦長との危機一髪

 1900……時は来た。

 俺は連合宇宙軍の制服を着こんで艦長室の前に立っている。もちろん、俺の隣にはセーラー服を着たルーがいる。


 何時用意したのだろうか。紺色のセーラー服だ。襟のラインと胸のリボンはえんじ色で普通と言えば普通なのだが、これは俺が通っていた中学校の制服だ。そしてしっかり名札が付いている。「はなぶさ 瑠璃るり」と……。


「ふふふーん。似合う?」

「ああ、よく似合ってるよ」

「可愛い?」

「ああ、可愛いよ」

「お兄ちゃん大好き!」


 二回飛び上がって二回くるりと回って俺の右手を掴んでに頬ずりをする妹である。そもそも地球で、三次元空間で生活がしたいからという理由で、俺の妹という設定をでっち上げたのだろうに、何ゆえ、お兄ちゃん大好きでなければならんのだろうか。普通の仲が良い兄妹ではいかんのか? いや、仲が悪い兄妹だっているはずだ。世の兄が、必ずロリコンで必ず妹コンプレックスに疾患しているわけではないと思うのだが。


「入れ」


 ドアをノックする前に声をかけられた。まあ、ドアの前でルーがあれだけはしゃいでいれば気付くだろう。


「英中尉入ります」

「るりも入るよ」


 俺はルーの手を引いて艦長室へと入った。夷守ひなもり艦長の衣装は……青い……チャイナドレス……だと思うが、それっぽい胸元の大きく開いた……腰から脚のラインがくっきりと露わになっており、太もも部分のスリットが特に……悩ましい。


「よく来た。そこの席に座れ」


 既に料理は用意してあるようだ。

 テーブルの上にはオムライスが三つ並んでいた。


 黄色い三つのオムライス。

 しかし、オムライスには必須であろう赤いケチャップは掛けられてなかった。これは何かあるに違いない。


「今夜はオムライスだ」

「はい。見たらわかります」

「お前の分は大盛りにしてある」

「ありがとうございます」


 確かに俺の目の前のオムライスは二回り大きい。


「本当はメイド服で奉仕してやろうと思っていたのだが、生憎、ドレスっぽい衣装はこれしかなかった。すまんな」


 メイド服とチャイナドレスはどう関係しているのか? お色気作戦なのか? そもそもメイドなら部屋に入る時は「お帰りさないませ、ご主人様」だと思うのだが?


「さて、今日の趣向はこれだ!」


 ドン!

 

 テーブルに置かれたのはトマトケチャップだった。カゴメではなくオタフクソースのレアなケチャップ……いや、そんな事はどうでもいい。艦長は何がしたいんだ?


「では、お前のオムライスにお前の好きな言葉を書いてやろう。そして魔法の呪文を添えてやるぞ」


 魔法の呪文……それは二世紀以上前に流行っていたというアレか? 美味しくなーれ何ちゃらキュンキュン? とかの??


「さあ、何て書いて欲しい?」

「何でもいいです。ていうか、普通にかけてください」

「それじゃあ面白くないだろ。じゃあ、私が好きに書くぞ」

「ちょっと待ったあ!」


 夷守艦長がオタフクのケチャップを掴んで構えた瞬間に、ルーが待ったをかけたのだが……。


「私も書くから半分空けてください」

「そうか。わかった」


 夷守艦長とルーが俺のオムライスに書ききった。それは「お前と共に熱い夜を……」と「大好きなお兄ちゃんとエッチしたい」だった。


「なるほど。大胆な中学生だな」

「艦長も意味は同じですよ」

「そうだ。ふふふ」


 二人が意気投合してる?

 これは不味いんじゃないか?


「では魔法の呪文を唱えるぞ」

「はい。せーの」

「美味しくなーれ。萌え萌えキューン!」


 二人が息を合わせて呪文を唱え、何処からか取り出した魔法のステッキを振っていたのだ……。正直な話、これにはドン引きする。


「じゃあ乾杯だ。ノンアルコールのビールでな。お子様はコーラだ」

「カンパーイ!」

「乾杯……」


 ノリノリの艦長とルーはガツガツとオムライスを平らげている。しかし俺は不安だらけでそれどころじゃない。しかし腹は減る。仕方なく性愛のメッセージが書かれたオムライスを食べた。


 俺はいつの間にか奥のベッドルームへと連れていかれた。夷守艦長だけでなくルーも一緒だった。まさか、今から三人でヤッちゃうのか??


 色んな意味の倫理観に照らし合わせてヤバイ状況だ。このまま流されてしまうのか。それとも最後の一線は越えないと拒否すべきなのか。 


 俺の理性がグラグラと揺れまくり崩壊しそうになったその時に緊急アラームが鳴り響いた。


「これは何?」

「A級アラートだ。スクランブル機が発艦した」

「え?」


 スクランブル機だと?

 何かの敵性勢力と接触した。これは士官とパイロットは集合せねばならない事態だ。


「仕方がない。今夜は解散だ」

「えええええ」


 夷守艦長は俺の目の前でチャイナドレスを脱ぎ去り、見事な下着姿を見せつけつつ艦長の制服を着こんでいく。


「さて、英中尉。ブリーフィングルームに集合だ。急げ」

「了解」


 何だかわからないのだが、俺の貞操は守られたようだ。

 未確認の敵性勢力が、俺を危機から救ってくれたようだ。


 正に危機一髪だったのだ。


【おしまい】


  



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ハナブサ中尉の危機一髪 暗黒星雲 @darknebula

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