【2023 短編賞創作フェス】Index Finger

星神 京介

Index Finger

昨日の取引は上手くいった。


仕事場でもある殺風景な高層マンションの一室で山崎慎一郎はそう感じていた。


おそらく自分の株式トレーダーとしての人生としても五本の指に入るだろう。


きっかけはいつものように監視銘柄を確認していたことだった。


寄り付きの値動きが激しく、出来高が明らかに急増していた。


普段なら考えられないような曲線を描いていた。


反射的に直近の板を買い占めるぐらいのショートポジションをとった。


素人なら下げを待って買いを入れるのだろうが、俺達のような玄人は違う。


ファンダでもテクニカルでもない。


大事なことはモメンタムだ。


普段なら一度売りを試してから本格的なポジションを取るが、今回の場合は違った。


直感が全力で売れと囁いていた。


山崎は信用売りも挟んで極大のショートポジションを取った。


監視銘柄はみるみるうちに下落し、僅か30分ほどで取引を終えた。


利益は10億ほど。


悪くない。


マンションのインターホンが鳴る。


宅配便だろうか?


山崎は注文した本の事を思い出した。


意識を昨日の出来事から今に戻す。


「はい、どなたですか?」


「証券取引等監視委員会のものです。昨日の山崎さんの取引についてインサイダー取引の疑惑がかかっています。これからそちらに向かいますので部屋のロックを外してもらえますか?」


「え?」


インサイダー取引だって?


誰にも接触していないし、情報ももらっていない。


「あの、何かの間違いでは?」


「とりあえず話はそちらで伺います。とりあえずロックを解除してください。もし解除されない場合はこちらの方で開けさせていただきますが、あまり手荒なことはしたくないので」


「分かりました。少々お待ちください」


山崎は部屋のロックを外す。


長い投資家生活で初めての出来事だ。


無実なことははっきりしているのだからちゃんと弁明しよう。


部屋のドアがノックされる。


「どうぞ」


山崎は声をかけた。


するとそこにはニヤついた男たちが三人立っていた。


「はじめまして、山崎さん。そしてこれがあなたの投資家人生の最後の時間です」


「え?」


男が詰め寄り山崎に強烈な一撃を食らわせた。


抵抗することもなく山崎の意識は暗く沈んでいった。


*いいなと思った方、応援ボタン、応援コメント、★、レビュー、ギフトをお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【2023 短編賞創作フェス】Index Finger 星神 京介 @kyousuke_hoshigami

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ