第156話 ウェズリーの悩み
俺とゲイリーに心を開いてくれたウェズリーは、自身が抱える結婚への悩みを打ち明けてくれた。
もっとも、その悩みというのはよくある価値観や生活習慣の違いではなく、もっと根深くてドロドロとしたものだった。
「僕の家――ジェンキンス家は代々王国貴族の方々をさまざまな面から支えてまいりました」
ジェンキンス家といえば王国内でも名士だ。
爵位こそないが、影響力は小さくないだろう。
だが、どうもこの家は爵位というのに強いこだわりがあったようだ。
いずれは貴族の一員に名を連ね、成り上がってやろうという欲望を抱いていた――言い方は悪いが、そのために他の貴族たちへは気を遣っていたようだ。
「父はずっと貴族たちのご機嫌取りをしていました。おかげで裕福な生活をしてこられたのですが……私の結婚には猛反対をしていました」
「えっ? 反対?」
おいおい、なんか話がややこしいことになっているぞ。
てっきり爵位を欲しがって無理やり結婚をさせようと――って、そうか。グラバーソン家は魔法使いの名門であっても貴族ではない。だから反対したのか。
「グラバーソン家に爵位はないからな」
「あぁ、それでか。でも、最終的には納得したから式の日取りまで決まっていたんだろ?」
「えぇ……最初は僕もようやく認めてくれたと喜んでいたのですが……」
「裏があったってわけか」
「裏ぁ?」
ピンと来ていないゲイリーは首を傾げる。
「グラバーソン家は公爵家であるマクリード家と強いつながりを持っている。恐らく、そこから公爵家の秘密を聞き出し、それをネタに脅しをかけようとしていたんじゃないか?」
「はあ……なるほどねぇ。随分と回りくどいマネをするなぁ」
「そうせざるを得なかったんだろうな。けど、これはジェンキンス家にとって千載一遇のチャンスとなった」
さらに追い風となったのはリリアン様とウェズリーが家柄に関係なく本気で愛し合っていたという点。
仮にこれが爵位を狙って公爵家にちょっかいをかけようという魂胆のもとで結ばれた政略結婚だったとしたら「何か企んでいるのでは?」と怪しまれた可能性がある。
だが、普通の結婚であったらそういう目で見られる機会も減るからな。
「僕は騎士としての仕事があるので実家へは戻れませんが……きっと実家の父は今も何かしようと企んでいるのではないかと不安になります。リリアンが結婚へ消極的になった例の件にしても、裏で糸を引いているのは父かもしれません」
感情が高ぶり、涙声で語るウェズリー。
王都勤務の騎士が忙しいっていうのは身に染みて理解している。だから、実家の怪しい動きも探れない――こういう時こそ、地方勤務で比較的自由に動ける俺の出番だな。
「ウェズリー、俺が君のお父さんに話をしてみる」
「えっ!?」
提案した途端、ウェズリーは驚きの声をあげたが、隣に座るゲイリーは「そうくると思ったぜ」とでも言わんばかりの表情を浮かべていた。
次の更新予定
毎日 18:00 予定は変更される可能性があります
地方勤務の聖騎士 ~王都勤務から農村に飛ばされたので畑を耕したり動物の世話をしながらのんびり仕事します~ 鈴木竜一 @ddd777
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。地方勤務の聖騎士 ~王都勤務から農村に飛ばされたので畑を耕したり動物の世話をしながらのんびり仕事します~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます