第155話 ウェズリーの苦悩
まさかここへ来て新たな可能性が浮上するとは思わなかった。
ジェンキンス家が成り上がろうとしてリリアンさんとの結婚を画策していたとするなら、当然ウェズリーも関与しているとばかり思っていた。
……だが、どうも怪しい流れになってきた。
自主鍛錬で汗を流すウェズリーは何かと葛藤しているように映った。
剣は正直だ。
どんなに本心を偽ろうとも、剣さばきにはその人間の心根が投影される。
俺に剣術を教えてくれた道場の先生が何度も口にしていた言葉だが……まさに今の彼の太刀筋にはそれが表れているように思えた。
「よぉ、ウェズリー」
「ゲ、ゲイリー先輩?」
詳しく事情を聞くため、ゲイリーがいつもの調子でウェズリーへと声をかける。相手が先輩であるゲイリーだからなのか、笑顔で応対しようとするが、どう見てもその表情は引きつっている。無理をしているのは見え見えだった。
さらにそのゲイリーに同行しているのが俺だと気づくと、いよいよ笑いが消えて一気に暗くなっていく。
恐らく、実家からも俺が嗅ぎ回っているというのは伝わっているようだ。
グラバーソン家と俺が世話になっているトライオン家は、最近になって親しい間柄となっているって評判らしいからな。
リリアンさんの件を聞きに来たって勘づかれるのは当たり前か。
「あなたはジャスティン・フォイルさんですね」
「俺の名前を知っているのか」
「もちろん。聖騎士ですし。それで、僕に何か御用でしょうか」
「……大体の事情は察していると思うのだが?」
そう尋ねると、彼は黙り込んでしまった。
言っていいのか。
知らないふりをするべきか。
そんな二択に頭を悩ませているって感じだな。
「ウェズリー・ジェンキンス……俺としては君がリリアンさんのことを本心ではどう思っているのか知りたいんだ」
「えっ?」
「もし結婚に対して悩みがあるというのなら相談に乗りたい。もっとも、俺は独身なので結婚生活の悩みには共感できないかもしれないし、何より女心には疎いが……それでも愚痴ぐらいならいくらでも付き合うよ」
「おっ、それなら俺も入れてくれ。後輩のそういう話は嫌いじゃないんだ」
俺やゲイリーからの言葉が予想外だったのか、ウェズリーは驚きに目を丸くしていた。
――だが、確実に隔てていた心の壁は崩れている。
さっきまで強張っていた彼の表情筋がここへ来て緩やかになっているのがいい証拠だ。
「……分かりました。相談に乗ってください」
意を決した男の鋭い眼光が俺たちを射抜く。
どうやら腹を括ったようだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます