人生のリセマラ

holin

人生のリセマラ



「……ここは?」


 ふと目を覚ますと、そこは真っ白な空間だった。


 まさか、誘拐? いや、わざわざ俺を誘拐する意味が分からない。俺はごく一般的な21歳の大学生だし……。それとも、これは夢? にしては思考がクリアだけど……ああ、明晰夢とやらか。


「申し訳ないのじゃが、これは夢では無い」


「えっ……?」


 気が付くと俺の目の前に、1人の老人が立っていた。


 だが、この人何者だ? ただそこに立っているだけなのに、俺の身体は強張って仕方ない。


「儂は輪廻転生を司る、所謂、神じゃ。単刀直入に言うと、お主は誤って・・・寿命を残したまま死んでしまったのじゃ」


「死ん、だ? え、俺、死んだのか?」


 俺の最後の記憶は、寝室で眠りについたところだ。特に病気にかかっているわけでもなかったのに……いや、待てよ。


「今、誤って死んだ、とおっしゃいましたか?」


「如何にも。本来、お主は52年後に死ぬ運命じゃった。しかし不手際により、こうして死んでしまったのじゃよ」


「生き返ることはできないのですか?」


「……申し訳ないのじゃが、一度、身体から魂が抜けると、元に戻ることはできないのじゃよ」


「そんな……」


「本当に申し訳ないと思っておる。そこでじゃ。一つお主に提案したい」


「何でしょう?」


「お主、転生してみないか? 特別に記憶を保持したままで」


「!」


 転生。転生か。アニメとかでよく見るやつだな。


「転生先はどういった世界ですか?」


「ん? あぁ、お主がこれまで生きてきた地球じゃよ」


「……あ、異世界転生ではないんですね」


「うむ。ただし、条件がある」


「条件ですか」


「お主の魂の寿命は先ほども言ったように52年しか残っていない。これを増やすことはできん。増やしてしまうと同時に記憶も消えるからな。これが嫌ならば、普通に記憶を消し、魂を浄化するぞ」


「52年……」


 俺の親父ぐらいの年齢か。人生100年時代とか言われていることを考えるとあまりにも短い……。


「あ、そもそも転生先はある程度選べますか?」


「いや、完全ランダムじゃ」


「えぇ……マジか」


 所謂「親ガチャ」に失敗したらどうすればいいんだよ……。


「ふむ。お主の懸念も分かった。ならば、1つ能力を与えよう」


 これは、転生モノにありがちな、チートを貰える流れか!?


「お主の好きなタイミングで、再び転生できるようにしてやる。寿命が増えることはないし、二度と同じ身体に入ることはできないが、これでその親ガチャとやらは問題ないはずじゃ」


「その回数に限りはありますか?」


「いや、無制限じゃ」


「よしっ!」


 これなら、現実世界でリセマラができるぞ! 僅かな人生ならなおさら、"スタート"が大事だからな。


「む、もう時間じゃ。それでは、よき人生を歩むのじゃぞ」


「え、もう少し聞きたいことが……」


 そんな俺の抵抗むなしく、俺の意識は途切れたのだった。









 転生してから2か月が経ち、ようやく自分が転生した環境を認識できた。


 いや、まさか生まれてすぐは目がろくに見えないとは……おかげで随分不自由な思いをしたものだ。


 そして結果、俺はかなり貧しいところに転生したらしい。家はボロボロで、床は地面むき出しだ。前世、テレビで見たアフリカの貧困層の暮らしがこんな感じだったな。



 ――ということで、俺は再び転生することにした。



 そう決意した瞬間、頭の中に「転生しますか?」という声が響いた。


 もちろん「YES」だ。


 二度と同じ身体には戻れない等の注意事項が述べられ、それでも転生しますか? と問われる。


 問題ない。答えは「YES」だ。



 そう答えた瞬間、意識が薄れていき、俺は2度目の転生をしたのだった。








 3度目の人生は、まさかの女だった。


 そうか、性別もランダムなのか……。


 それなりに環境は良さそうだったが、俺は男としての人生を歩みたいので、即転生を決意。


 再び注意事項が述べられ、その後に「YES」と答えたのだった。







 4度目の人生。男として生まれることができたものの、再び貧しい地域だった。


 当然、再び転生を決意した。







 5度目の人生。なんと日本人に転生した。日本語が聞こえてきたときは驚いたよ。


 だが、夫婦仲は最悪だ。夫の方はDVをするクズで、俺も叩かれそうになった。


 暴力的な父親は勘弁なので、その場で転生を決意した。









 24度目の人生。俺は裕福なアメリカ人の息子として転生した。


 この転生先に決めるまでに、俺の寿命を3年ほど削ってしまい、残りの寿命は約49年。


 終わりが明確な人生だ。俺はとにかく努力した。


 たくさんの挑戦をし、たくさんの出会いを経て、たくさんの経験を得た。


 そして26歳で結婚をし、29歳の時に妻が妊娠した。


 ……だが、死産だった。あまりのショックで、俺と妻はしばらく立ち直ることができなかった。


 そしてその5年後――34歳の時、娘が無事に誕生した。



 そして同時に絶望した。



 俺はこの子が大人になった姿を見ることができないことに気づいて。


 ――俺はこの子が15歳の時に死ぬ。


 俺は仕事よりも家族を優先することに決めた。



 それからあっという間に15年が経った。



 両親にもっと親孝行をしてあげたかった。先に死ぬことになってごめん。


 娘の成人した姿を見たかった。この子は将来どんな大人になるのだろうか。どんな男と出会うのだろうか。


 そして妻にはこれから苦労をかける。シングルマザーとして娘を養っていかなくてはならない。もっと君と色々な思い出を作りたかったなぁ。



 あぁ――死にたくない。




 死にたく、な……









 不思議な景色だった。



 アフリカの貧困層に生まれた赤ちゃんが死んで、母親がその亡骸を抱きかかえて泣いている。


 スペインで生まれた赤ちゃんが死んで、母親が嘆いている。


 アンデスで生まれた赤ちゃんが、日本で生まれた赤ちゃんが……




 死んで、死んで、死んで、死んで、死んで、死んで、死んで――。




 そしてそのほとんどの両親は、それを嘆いて、嘆いて、嘆いて、嘆いて、嘆いて――。







 あぁ、これは俺が作り出した光景なのだろう。



 子供を持った今の俺なら、自身の赤ちゃんが死んだことへの嘆きは共感できる。




 俺の身勝手な思いで傷つけた人たち、か……。





 再び景色は変わる。


 アフリカの貧困層に生まれた子供が、貧しさや飢餓に苦しみながらも、家族に愛され、成長していく。勉強する機会を得て、医者となり、同じように苦しんでいる貧困層の人たちの病気を診ている。そして、配偶者を得て、子供も生まれ、幸せな家庭を築いていた。



 同様にスペインの子供が、アンデスの子供が、日本の子供が……



 ――いずれにせよ、幸せそうに生きていた。 





 もしかしたら、これは、あり得た未来なのだろうか。




 結局は、スタートなんて関係なく、幸せをつかむことが出来たのかもしれない。



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