学生時代
第2話 かわいこぶり
第一章 学生時代
私は三人兄弟の末っ子として生まれた。そのため親に甘やかされて育った。二人の兄がいるが、二人の兄と私はかなりの歳の差があり十二歳差の兄、圭介(けいすけ)と十歳差の兄
、陽太(ようた)がいる。兄たちにもだいぶ可愛がってもらった記憶がある。
私が幼稚園生の頃、親に連れられて陽太兄さんの中学校の授業参観に行った。私はまだ小さな子供にも関わらず、休み時間に兄のところに走っていって「構って」といったような仕草をした。なんとあざといことだろうか、そうすれば周りのお兄さんやお姉さんが可愛がってくれることを知っているのだ。私は可愛がってもらうことは愛してもらっている気がして何よりも嬉しかった。
「可愛い!!俺の生意気な妹と交換してくれ!!」
「こういう弟欲しかったなぁ」
と、まるで子役のようにチヤホヤされた。
この「あざとさ」はのちに私の武器になっていく。小学二年生の頃、多分あれが私の最初のモテ期であった。ふざけてかわいこぶってみると、女子うけが良くなってしまい、それ以降クラスの女子たちが私に「可愛い」と言って、私の頭を撫でたり、抱きしめてくるようになったのだ。その直後、親の都合で私は転校したため、モテ期は突然終了するが、次のモテ期は中学生の時に来る。
中学生になって、私は吹奏楽部に入部した。また合唱祭では伴奏を担当した。実は、ピアノを弾いている陽介兄さんに憧れて三歳頃からピアノを習っていた。今まで小規模なピアノコンクールに出場経験はあるものの、入賞すらしておらず、人よりも下手だと思っていた。そんな私であるが、クラスにピアノを弾ける人がたまたまいなかったので仕方なく伴奏をすることにした。面倒くさがりなので特に練習もしないで合唱祭に臨んだ。
するとなんということだろう、合唱祭が無事に終わった後、会場にいた学校中で「あの男の子のピアノ上手かったよね」と私の伴奏が話題になったのである。その後一ヶ月間は学校中がこの話題で持ちきりになったのだ。吹奏楽部の女の先輩たちに「私の誇りの後輩!」ともてはやされた記憶もある。僥倖に恵まれた結果だ。また相変わらず先輩たちに、味をしめた「かわいこぶり」をして「可愛い!」とも言われていた。
月日が経ってだんだん落ち着いていくが、異性からの告白は絶えなかった。
モテていたのは現実世界だけではない。
実は配信アプリで配信をしていた私は、相変わらず私の武器である「かわいこぶり」を発揮し、配信仲間のグループがあったのだが、その中で年下の女友人と年上の女友人が「〇〇(私)お兄ちゃん大好き!!」「いやいや私の方が好きだし、もう婚約してるから」などと、ふざけていたのかもしれないが、私のことで争っている現場を目撃したと友人から聞いたこともある。
私はもともと自信がある方の人間だったがさらに自信がついていき、自分に自惚れていく。「私は人に好かれる人間である」と思い込んでいた。
そんな自惚れ男に、まるで天罰のような出来事が起きる。私は今まで告白は数多く経験したことがあったが、それを受け入れることはなかった。しかし周囲に彼女ができ始めると「隣の芝生は青い」ということわざがある通り、カップルを羨むようになる。高校でも「ピアノが上手い男」として名の通っていた私は、告白は相変わらずされていたのである時、特に関係がなかった女の告白を即決で受け入れた。しかし即決だったからか彼女に浮気され、その彼女とは別れるのであるが、次にまた即決でできた彼女にも浮気をされる。
後で友人から聞いた話だが「あいつはかわいこぶっていてきしょいし、男らしくない」と影で言っていたらしい。
今考えれば些細な出来事であるが、当時の私はかなりショックを受けた。私の武器だと思っていた「かわいこぶり」が否定されたのだ。そのように言われたのは初めてだったので「否定する人がいるのか」と思い知らされた出来事でもあった。
これ以降徐々に、自分に自信がなくなっていくが、これに追い打ちをかけるように私の存在を否定されるような事が起きる。
別れた彼女が多くの人間に「あいつはかわいこぶっていてきしょい仕草をする男らしくない男」と言いふらしていたのだ。
私の周りからは人間が離れていき、孤立していくようになった。
凡庸な天才 向野釈尊 @tomorailine
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