即位

高麗楼*鶏林書笈

第1話

 彼の前には文武百官がずらりと並ぶ。どれも見慣れた顔だ。

 この日、彼はこの国の玉座に就いた。既に先王の頃から代理聴政として政事には携わってきた。その時は先王が支えてくれていたが今はそれがない。国家と民の運命は彼の双肩にかかっている。

 彼はそのことに対し不安も恐れも感じていない。これが自身の運命であることを肯定的に受け入れているためかも知れない。

 傍らにいる一人の大臣の顔に目をやった彼の脳裏には幼き頃の出来事が蘇る。

 王の御前、左右に百官が控える中、彼の父親は運び込まれた大きな櫃の中に入れられ蓋をされた。

「父上を許して下さい」

 泣き叫びながら飛び出そうとする彼の腕を文官の一人がしっかりと掴んだ。

 百官たちは表情を変えず見守っていた。ある者たちの表情には薄っすらと喜色が浮かんでいるように見えた。

 その一人が今ここにいるのだ。彼はさりげなくその者を睨んだが、表情一つ変えなかった。

 父親は八日目に静かに息を引き取った。

 父には夢があった。それは、民を幸せにすることだ。

 彼は父の夢を叶えるために、学問に精進し、武芸も磨いた。そして、民を慈しんだ。

「ああ、私は思悼世子の息子なんだなぁ」

 彼が呟くと先程睨んだ者を含んだ何人かの表情が一瞬青ざめた。

 それを見て彼は内心で苦笑したが、表情は変えなかった。

 それぞれ身に疾しいことがあるのだろう。

 彼は彼らに報復しようとは思わなかった。

 それよりもすべきことは山ほどあった。

 派閥争いに汲々している朝廷を正し、民の苦しみを少しでも減らし、そして軍も整えなくてはならない……。

 これらは父がしたかったことだ。

 父が望んだことを全て実現すること、これが父を死に追いやった者たちへの復讐になるのだから。

 王位に就いた今日から全てが始まる。

 彼は、この国に尽くすことを天に誓うのだった。

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即位 高麗楼*鶏林書笈 @keirin_syokyu

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