同居人募集始めました

佐和夕

第1話

ジャパネスクス国にある中央都市『オーエドタウン』では、様々な人種の人たちが日々忙しく働いていた。人間はもちろんのこと、獣人に鳥人、魚人もいて、別名『グローバルタウン』などとも呼ばれている。

そこに本社を構える会社で働いている菊之助も、馬車馬のように働く人間の一人だった。

童顔で若く見られがちだが、先月の誕生日で三十五歳になった。独身で恋人もいなく、今は仕事が恋人状態だ。一人暮らしには慣れているけど、最近ふと寂しさを感じることがある。このままずっと変わらない日々を過ごすのだろうか。


「課長、大丈夫っすか? 目の下の隈が凄いんですけど……」

「えっ、そんなヤバいか?」


人生の最後は孤独死だろうかと悲観しそうになっていたら、部下から現状のことで心配された。

菊之助は我に返り、ツルリと自分の頬を撫でてみる。指先に当たった感触がボコボコしていて、肌も荒れていることに気づいた。ここ最近残業が続いていたので、きっとそのせいだろう。


「ちゃんと家に帰って飯食って寝てます?」

「ご飯は食べてるし寝てるぞ」


部下の質問に菊之助は目を逸らしつつ、ぼそぼそと答えた。

食事はスーパーバランス栄養食のバーで、家まで帰る時間が勿体無いので、ここ十日ほどは仮眠室で寝ていた。だから間違った答えは言っていない。言っていないが、『家に帰って』の部分だけ聞こえないふりをしたので、少し後ろめたいだけだ。


「いくら忙しくても帰って休まないとダメっすよ」


華麗にスルーはしてもらえず、お見通しな部下から、もっともなことを言われてしまう。


「だけど、帰っても誰もいないし……」


疲労が蓄積していたからか、思わずポロリと本音が口から出た。菊之助は瞬時に自分の顔が熱くなるのを感じる。何を言ってるんだ自分は。今の無し、と言おうとしたが、部下から思いがけないアドバイスを受けた。


「なら、同居人募集してみたらどうっすか?」

「同居人?」

「ルームシェアっていうんすかね? 流行ってるみたいですよ」


婚活したら、結婚したらいいじゃないか、と言われることはあっても、ルームシェアを提案されたのは初めてだった。


その日の深夜。十一日目の仮眠室で、菊之助はルームシェア募集サイトを閲覧していた。部下の話を聞いて、何気なく調べたら専門にやっている仲介業者を見つけたのだ。

悩んだ末、菊之助は会員登録して、募集要項を入力していく。


「男性希望、一名、できれば獣人がいいなぁ。モフモフ系の」


菊之助は獣人が大好きだった。幼い頃、変な人に連れ去られそうになった時、熊の獣人に助けてもらったことがあり、それから獣人が大好きになったのだ。その熊の獣人は菊之助にとってヒーローだった。

菊之助は思い切って、獣人優遇、と付け加えてみる。

初めての試みに、胸が高鳴った。

上手くいけば、新しい生活がスタートする。何度も読み返してから、菊之助は思い切って登録ボタンをクリックした。


「うわぁぁぁぁ! 募集しちゃった!」


人生初の同居人募集に興奮した菊之助は、その夜一睡もできなかった。

翌日、更に顔色の悪くなり、それを見た部下から『お願いですから、今日こそ帰宅してください!』と菊之助は叱られることになる。

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同居人募集始めました 佐和夕 @sawa_yuu

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