第4話 緊縛の果てに

 臣下の騎士達に指示をしてから、かつてマクラーレン王子が好んで使った監禁部屋にティナを連れて行った。そして本人が望むままティナを縄で緊縛する。


 縄で縛られ、天井から吊るされるティナは歓喜の表情だ。ドラゴニアタクティクスにおいてはマクラーレン王子とティナがどのように交わったかまでは語られない。プレイヤーの俺は嫌がり、泣き叫ぶティナを想像していたが、現実とは恐ろしいものだ。


 まさかあのティナが雌豚のような表情でマクラーレン王子を欲しがるとは、想像もしていなかった。


「最後に聞くが、本当に俺に弄ばれていいんだな。今だったら引き返すこともできるぞ」


「私はもうマクラーレン様の奴隷です。なんでもお好きなようにしてください」


「幼馴染のリークではなく俺を選ぶのか?」


「もちろんです。リークなんかよりマクラーレン様の方が何百倍も素敵です! 早く私をマクラーレン様のものにしてください!」


「分かった」


 ティナが言葉を発するたびに心が疼く。それはあの男も一緒だろう。


 ティナは知らないが、この部屋には先ほどからもう一人の俺がいる。


 この監禁部屋は二重構造で、隠し部屋からマクラーレン王子と女の情事を覗けるようになっている。


 これはマクラーレン王子は寝取りを好んでいたからで、女たちが王子に情欲を燃やす姿をその恋人や夫は目を背けずに直視しないといけないのだ。


 今夜も、俺は目撃者を一人用意しておいた。もちろんその人物はティナとは切り離せないあの男だ。


 涎を垂らさんばかりのティナの表情は隠し扉から一人の男が現れた時、青ざめたものとなった。男の顔もまたくしゃくしゃに歪んでいた。


「ティ、ティナ……」

 そう情けない声を出すのはリークだ。俺は騎士に指示し、リークを手厚く回復させ、連れてきておいたのだ。


 緊縛されるティナは呆気に取られたような顔でリークを見た。「リ、リーク、見ないで」

 

 ティナは青ざめた顔で俺の方を向く。「王子、な、なんて酷いことを……」


 言葉を失うティナを前に、リークは震える声で言った。

「今の言葉は本当なのか? 縄で縛って欲しいとねだり、僕よりも王子が何百倍も素敵だというのは……」


 ティナは俺のことをきっと睨みつけた。

「もちろんそんなことないわ! 私は王子にはめられたのよ! 本当に大事に思っているのはリーク、あなただけ!」


 ティナのおぞましい嘘を聞いたリークは俺の胸ぐらを掴んで殴ろうとしてきたが、駆けつけてきた騎士によってはがいじめにされてしまった。


 俺は冷静に言った。

「リーク、俺はお前にティナの本性を知って欲しかっただけだ。お前もティナの裏切りの言葉を聞いただろう」


 リークはその後も罵声を飛ばすが、部屋にとある動画が流れ始めると、その勢いは途端に失われた。


 その動画とは先ほど、中庭で撮られたティナの言動全てだ。城にはセキュリティのため監視用の魔導機が設置されている。ティナがリークの酒に薬を盛る姿、裏切りの言葉を吐く映像もしっかりと記録されていた。


 「ずっとずっとマクラーレン様に抱かれたい、私はそう望んでおりました」


 監禁部屋には何度も何度もティナの裏切りの言葉が繰り返し再生された。


 ティナは必死に「嘘よ! 私はあの王子にはめられたのよ!」そう叫んでいたが、リークは青ざめた顔で下を向いてしまった。誰がどう見てもティナの裏切りは明らかだ。


 俺は言った。

「リーク、俺はこの女を寝取ったりはしていない。ティナの処遇はお前が決めるがいい」


 俺は監禁部屋にリークとティナを置いて、部屋を出た。


 これで俺が主人公から復讐されるという運命が変わったかまでは分からない。ただ少なくとも、ティナの本性を主人公に伝えることはできたはずだ。さてリークがティナにどんな対応をするのか静かに見守ることにしよう。


 そう思っていたのだが、この顛末の行方がどうなったのか、俺が知ることはなかった。


 なぜなら数日後、突然、再び元の世界に戻ってきてしまったからだ。気づくと、俺は自宅アパートに寝ていて、超絶イケメンの悪役王子からアラサー会社員に戻っていた。


 突然のマリーとの離別にショックを受けるとともに、見慣れた光景にどこかほっとする。あそこの生活は幸せそのものだったけど、常に復讐されるかもしれないという危惧があった。知らず知らずのうちにストレスがかかっていたのだろう。


 元の日本だとマリーのような美女を抱くことはできないが、また平凡な会社員生活を送るのも悪くはない。そう思い、あたりを見回した時、異変に気付いた。


 俺のアパートに見知らぬ道具が置かれているのだ。


 俺の部屋に置かれているのは、特殊なプレイで使うような手枷や足枷などの拘束具。


 そして気づいたのだ。俺がドラゴニアタクティクスの世界に行っている間、マクラーレン王子が俺の体に宿り、こっちの世界で暮らしていたことに。


 スマホを操作して驚いてしまった。

 マクラーレン王子はあの最低なモラハラ会社に順応したようで、たった一年で俺はヒラから部長へと出世していた。おまけに恐ろしく美人な彼女が七人ほどいて、スケジュールアプリにはびっしりと予定が詰まっている。


 どうやらマクラーレン王子はこっちの世界でも随分と派手に生活していたようだ。


 ドラゴニアタクティクスもプレイしていて、とあるレビューコメントにマクラーレン王子はこう記していた。


「マクラーレン王子の末路、酷すぎだろw あとティナは少しも純粋ではないからな、初体験は主人公の親友。体験人数は三十人以上。いい女はマリー一択」


 俺はティナのとんでも新情報に愕然とするが、マリーが一番いい女という意見だけはマクラーレン王子と一致した。


 実は半年後、もう一度マクラーレン王子と入れ替わることになり、色々と困惑することになるのだが、それはまた別のお話。



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主人公の幼馴染を寝取る予定の悪役王子に転生したけど、復讐されたくないので絶対に俺は寝取らない! みつばち架空 @kurt08

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