第3話 裏切りの言葉
ドラゴニアタクティクスは幼年期からゲームが始まる。主人公のリークとその幼馴染のティナは幽霊屋敷を探検したり、魔物がたむろする洞窟を攻略しながら二人は大人へと成長していくのだ。
そのほかにも辺境領地で開かれる秋祭りや夜の市など、メインシナリオ以外のイベントも豊富で、幼年期編が終わる頃にはプレイヤーはティナを本物の幼馴染のように感じるようになる。だから、転生してもなお、ティナはどこか親しい幼馴染のように俺の目に映ってしまう。
そんなティナが主人公と敵対する悪役王子である俺の顔をじっと見つめていた。
「マクラーレン様、こんな場所で何をなさってるのですか?」
「ティナこそ、ここで何をしてるんだ。まさか誰かに連れて来られたのか?」
ティナは首を振った。
「マクラーレン様が大広間を一人立ち去る姿を見たので、追いかけてきたのです。真っ青な顔をしていたので心配になって」
心配になって追いかけてきた?お前の最愛の幼馴染リークが倒れているというのにか?動揺しているとティナは言った。
「ご気分が悪いのでしたら私に命じてください。私は治癒魔法を得意としてますので」
「治癒魔法ならリークに使ってやったらいいだろう。俺なんかより体調に優れない様子だったぞ」
「今晩はリークは寝ていた方がいいと思います。できれば彼を傷つけたくないので」
その言葉に再び俺は大きく動揺した。傷つけたくない?そして、何よりティナの視線が俺を揺さぶった。
転生する前の俺が今のティナの視線を向けられたとしても深い意味はわからなかっただろう。でもマクラーレンの記憶は知っている。数多くの女を手籠にしてきた悪役王子はこの視線の意味をよく理解している。
ためらいと罪悪感、そして欲望と好奇心が混ざり合った女の目。
だけれどもドラゴニアタクティクスの熱心なプレイヤーだった俺はその理解を拒否している。ティナはこんな女じゃない。幼馴染を一途に想う純粋ヒロインだったはずだ。悪役王子の俺にそんな目を向けないでくれ。
ティナは言った。
「以前はよく私をお誘いになられたのに、最近はどうなされたのですか?」
「今は許嫁のマリーとの生活で満足しているのだ。見境なく女に手をつけた過去の俺とは違う」
「嘘。マクラーレン王子は今でも私を目で追いかけています。それも以前にも増して物欲しそうな目つきで」
ティナは核心をつく言葉を口にした。
「マリー様はご不在で、マクラーレン様はお寂しい夜を送っていると聞いております。私が代わりに王子のお望み通りの女になります。今夜はずっとそのつもりでおりました」
「つまり、君がリークに薬を盛ったというのか……」
「ええ。今晩しかそのチャンスはないと思いまして。以前、王子に夜の誘いを仄めかされてから、ずっとずっとマクラーレン様に抱かれたい、私はそう望んでおりました」
その言葉でドラゴニアタクティクスに流れるもう一つのストーリーを理解する。
そうか、ティナは無理やり寝取られたのではない。自ら望んで悪役王子に抱かれたのだ……大事な幼馴染の恋人がいながら……
まるでマクラーレン王子とティナが交わる現場を見た主人公のように、身動き一つできず俺は立ち尽くした。
大事な幼馴染に裏切られた、そんな気分だった。
そして、俺は目の前にいるかつての推しに言葉を返した。「では、ついてきなさい。望み通りお前をたっぷり可愛がってやろう」
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