第3話 猫がバスになる話

 猫に乗ることができるのはご存知でしょうか。

 東の島国にある村では、猫がバスの形をしているのだそうです。


 どういう形状で、猫に人が乗るのか………


 とても気になった私は、いくつもの飛行機を乗り継ぎ、電車やバスを乗り換え、ようやくその村へ辿り着きました。



 水の資源に恵まれた国にある村なので、稲作がとても盛んなようです。

 山の際まで伸びた水田が延々と繋がり、とても美しい自然豊かな光景ですね。

 しかしながら、現在、季節は夏。

 うるさい蝉の声はもちろんですが、じりつく日差しはもちろん、湿気もかなりひどい。ぺったりと毛が体に張りつくき、少し、気持ちが悪いです。


 バスをされている猫さんとは、村で待ち合わせをしております。

 しかし、指定された場所はありませんでした。

 大きな道路にぽつりとあるバス停を見ても、人間の運営会社の名前しかありません。

 私はひと休みしようと林のすぐ横のベンチに腰をおろすことにしました。

 木陰の中は陽射しがないぶん、とても涼しく感じます。


 突然、甘い香りが鼻をかすめていきます。

 顔を上げると、なんと、目の前に大きな灰色のバスが!

 ですが、ただのバスではありません。

 運転手がいるだろう前方には猫の頭があります。

 ノルウェージャン風の凛々しい目元に、長い毛並み。

 そして、大きな口と、大きな黄色の目が光っています。

 ですが、とても優しそうに、にっこり笑ってくれました。


「あ、あなたが猫で、バスの」

「なぁ」


 この村の人たちには、猫バスと呼ばれているそうです。

 まさか、そのままの名前とは……!


 ふと、後方でドアが開きました。

 胴体部分が座席になっているようです。

 予想外です。

 背中や座席をつけた箱を体につける、または引っ張ることで、猫のバスと称されているのかと思っていたのですが、本当にバスです。


「では、失礼します」


 スライド式のドアも毛に覆われています。

 ステップを上がっていきますが、そこも、すべて、毛!

 とても艶やかで、ふんわりとお日様の香りがします。


 私は左右対面に作られた座席に腰を下ろしました。座席もふわふわ。

 ですが、夏仕様なのか、毛はひんやり。気持ちがいいです。

 私は話しやすいように前方の席に体をずらし、取材を始めることにしました。


「猫バスさんは、この仕事を何年ほどされているのですか?」

「にゃああ」


 ざっくりですが、100年ほど、と。

 普通の猫の寿命ではないですが、命が複数存在する国もあります。

 なにより、この国は人間以外の『もののけ』という、人とも動物とも言えない生き物が共存している国です。

 猫バスさんはこの『もののけ』という生き物になるのかもしれません。

 それでも見た目が猫であれば、猫にはかわりません。

 取材を続けましょう。


「いつも、どのように乗せているんですか? バス停も時刻表もなかったので」

「にゃ……なー」


 この近辺を周回しているため、見つければ乗せているそう。

 なので、私も拾ってくれたそうです。助かりました。


「人間ももののけも、みなさん、乗られるんですよね」

「なぁ!」


 もちろんと、ふんふん鼻を鳴らして答えてくれます。

 ただ人間の場合は、子どもを乗せることの方が多いそうです。


「どうしてですか?」

「なぁにゃー」


 大人は行き先が決まっているが、子どもは行き先が決まっていないので、乗せやすい。

 なるほど。確かに、働く大人にとっては、目的地のわからないバスに乗るのはとても怖いですよね。


「行き先指定はしていないのですか?」

「なぁにゃ」


 よっぽどのことがあれば指定通りに。それ以外は自由。

 猫バスさんの気儘な雰囲気がここから伺えます。


「なぁ?」


 行きたいところはあるか、と聞かれました。


「それでは、見晴らしのいい場所に」

「なぁご!」


 任せろと叫ばれ走り出した猫バスさんですが、もう風です。

 畑のなかを突っ切っていきますが、青々とした稲が折れることもありません。

 すべて猫バスさんをさけるように草はもちろん、木々までもよけているように見えます。


「とても早いですね」

「なあ」


 普段通りの速さだといいますが、車よりも早く感じます。

 畑仕事をしているおじさんたちが手を振ってくれました。

 手を振り返していると、猫バスさんが跳ね上がりました。

 猫の跳躍は素晴らしいですが、この体格での跳躍は山すら飛び越えそうです。

 山の峰を伝うように飛び跳ねながらたどり着いたのは、一際大きな木の上でした。


 村が一望できるそこは、のどかで静かで穏やかな時間が積み重なって育まれてきたのだと、感じずにはいられません。

 もののけ、という他の国ではなかなか相容れないものすらも、ここの人たちはありのままを受け止め、尊重しているように感じます。


「素晴らしい村ですね」

「な」

「私もこの村で生まれていたら、少し、ちがったのでしょうか」

「……なあご」


 少し、浸ってしまいましたね。

 太陽が夕日に着替え始めていたからかもしれません。


「今日は貴重な体験をさせていただき、ありがとうございます。最後に、猫バスさんにとって、バスの仕事とはなんですか?」

「なあ? にゃあ」


 仕事? 仕事ではない、生活だよ。当たり前だと言わんばかりの声です。

 なるほど。日々の生活の一部に、バスとしての役割を果たしているのでしょう。

 猫バスさんは、自然体で生活の一部となっているのが、とても印象的でした。

 この村での出会いは、私にとって、生涯忘れられない出来事であり、生き方の一つの指針になるのではと、思って止みません。




 さぁ、全三回、お送りしてまいりましたが、いかがでしたか?

 猫が◯◯した話ということで、ポスト、医者、バスの猫をご紹介させていだきました。

 それぞれの生活に根付いた猫の姿、とても興味深いと思いませんか?


 また機会があれば、他の猫の◯◯した話をご紹介したいと思います。

 この度は、お付き合いいただき、本当にありがとうございます。


 二足歩行猫類 ヨル

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猫が◯◯する話(全3話完結) yolu(ヨル) @yolu

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