番号のない戦闘人形少女は、人類救済の鍵となるか
一式鍵
暴走する人形たち
世界は、この惑星――
僕は
だが、僕たち人類の戦争はある日突然終わる。人間たちの
僕の住んでいた都市も例外じゃなかった。僕たちが完全に支配下に置いていたはずの
そして悪いことに、僕は
結論から言うと、僕のホームタウンも、襲撃からわずか数時間にして廃墟と化してしまった。
僕は飛行機の中でそのニュースを聞いた。信じられない思いだった。飛行機は着陸予定だった空港を避け、首都近郊の巨大な空港に降りた。空から見ると、空港内の戦闘の痕跡がはっきりわかった。だが、この空港は――珍しいことに――人類が勝利したらしい。空港ターミナルといくつかの滑走路を犠牲にして。
僕は地上に降り首都の研究所に到着するなり、首都の開発者チームのメンバーとの
研究所の地下会議室――冷たい壁、冷たい床、冷たい天井、そして冷酷な情報を映し出す投影式スクリーン。
チームのメンバーは一様に青白い顔をしていた。きっと、僕も。僕は彼らに意見を求められたが、首を振るばかりだ。被害がこうも広範囲に渡ってしまっていては、対策のしようがない。
「主任、その」
一人が僕を呼ぶ。主任というのは僕の肩書だ。
「
「あれはまだ実戦投入できる段階にない」
「しかし、
「でも
僕は首を振る。たしかに
「主任、しかしどのみちこのままでは」
焦る気持ちはわかる。それにこのままでは確かに滅亡を待つだけとなる。
「わかった。
「いきなり全機ですか」
「逐次投入ほど無駄なことはないよ」
僕はそう言ってから、彼女らの眠る部屋に移動した。
――――
12人の
僕たちは
しかし、状況の好転はそこまでだった。
再び多くのSYNシリーズを含む
というより、彼女らは、
僕は単身研究所の最下層に移動し、限られた者にしか開けられない扉を開く。
青白い室内の中央には巨大な箱のような物が置かれている。僕以外の研究者は「棺桶」と呼んだりするけど、その度に僕はイライラしたものだった。
箱の上半分はクリスタルガラスで覆われていて、その中には金属の装甲を纏った一人の女性が眠っていた。
数分前に、政府がこのWLTの予備機、
だけど、彼女も暴走するのでは――その危惧は確かにあった。
そもそもなぜ、突然
だけど僕には彼女を破壊するなんてことはできない。政府からその命令が出た時にはすでに、僕は決意していた。彼女を目覚めさせると。もしその結果、彼女も暴走するというのならそれまでだ。うまく行けば御の字だ。僕ら人類は、そんな分の悪い賭けに全額ベットしなければならない。今やそれほどまでに危機的な状況にあるのだ。
――というのは建前だ。
僕は彼女の目を見たかった。その声を直接その口から聞きたかった。艷やかな黒髪に包まれた顔に、ほんの僅かでも感情を見せてほしかった。
「ワルト、起きて」
僕はいくつかの物理スイッチをONにし、手順に沿ってコマンドを入力していった。
どうやっても彼女は今までは物理的には起動しなかった。そのまぶたを開けたことはなかった。
僕が操作していた端末が突然落ちた。同時に、ワルトの眠る箱が輝き始める。クリスタルガラスの天井が小さな擦過音と共に開いた。
僕は慌ててその箱に駆け寄った。箱の中から声が響く。
『稼働限界は、1億6000万秒』
「……約五年?」
『
ワルトは目を開けていた。その顔は十代の女性をモデルにして構築されていた。黒褐色の瞳は仄かに青く輝き、艶のある薄い桃色の唇はわずかに開いている。他の
「ワルト」
『イエス、私は
「いや、君の名前がワルトなんだ」
『私はワルトと呼称されるという認識で良いですか、
同僚の研究者たちは僕のことをチャットの中でだけ
この部屋の入口に多数の人類の兵士が集まってきたからだ。隊長らしき男が怒鳴った。
「
「彼女がいなければこの都市は灰になるぞ、完全に!」
僕は兵士に怒鳴り返す。しかし兵士たちは命令を遂行することしか考えていないようだった。
「部屋ごと爆破してや――」
兵士はそれ以上何も言えなかった。他にも五名の兵士がいたが、全員が激しい銃撃を受けて肉塊と化した。
僕はそんな悲惨な光景と危機的状況を前にしても、不思議なほどに冷静だった。
「ワルト、頼めるかい?」
『了解しました。破壊対象を確認しました』
ワルトは右手に
『
そう言われて、僕はおとなしく部屋の壁際まで後退する。
ワルトは左手の拳銃をくるりと回して、高らかに宣言した。
『
人類による反撃の
番号のない戦闘人形少女は、人類救済の鍵となるか 一式鍵 @ken1shiki
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