第3話 召喚士の才能とは

「ぎゃはははは!! そりゃこんなクソガキに召喚石が使えるわけねーよな」

 男が笑い転げる。

 まるでジータにバカにされた時みたいだった。


「……やっぱり、僕には無理か」

「おい、俺のこと呼び出しておいて、何ガッカリしてんだ」

「ご、ごめん。僕がわるいんだ」

「そんなことより、さすがの俺でも、あのデカいのは倒せないぜ」

 トロールがゆっくりと近づいて来ていた。


「でも、何とかしなきゃいけないんだ」

「じゃあ、もっとやってみろよ」

「え?」

「まだ召喚できるだろ。やれるだけやってみろよ!」

 手元の召喚石に目を向ける。


 そうだ、一回でできるわけないんだ。

 だったら、できるまでやってみれば良い。


「やってみる」

 召喚石に手をかざし、魔力を込める。

 光が生じ、モンスターが現れる。

 それは、やはりスライムだった。


「ぎゃはははは!」

 男の笑い声が響く。

 だけどもう、そんなの気にならなかった。


「お、スラよしじゃねえか」

「スラまるさん? 僕も召喚されたってこと?」

「そうみたいだな」


 気を取り直して召喚する。

 やはり、またスライムが現れる。


「よう、スラみ」

「あら、スラまるちゃん」

「まだまだ」


 召喚する。

 またもやスライムが現れる。


「今度はスラやすか」

「おう、久しぶりだな」

「流石にもう飽きたぜ。ここで終わりだ」

「おい、あのデカぶつは俺たちで引きつける。お前は召喚に集中しろ」

「わかった。任せたよ」

 スライムたちがトロールの方に向かっていく。


「そんなやつら蹴散らしてやれ!」

 トロールが棍棒を振り下ろす。

 しかし、体の小さなスライムたちは、その攻撃をひらりと交わしていく。


 僕が、僕が頑張らなきゃ。

 今度こそ!!


 魔力を込めてモンスターを召喚する。

 しかし、現れたのはまたしてもスライムだった。


「僕はスラじろう、よろしくね!」

「う、うん。よろしく……」

「あれ? もしかして、グライデンさん?」

「そうだよ」

「うわー! 伝説の召喚士じゃん!!」

 スラじろうは飛び跳ねて喜びを表現していた。


「違うよ。誰かと勘違いしてるんじゃないかな?」

「ううん。間違いないよ。スラまる兄さんから聞いた通りだ」

「スラまるから?」

「スラまる兄さんは、いつも伝説の召喚士グライデンに呼び出されてるんだって」

「それは、スラまるが大げさに言ってるだけだよ」

「伝説の召喚士グライデンは、毎日毎日修行を積んでいて、成長し続けてるんだって」

「まあ、それはそうだけど」

「それに、時には勝てない相手と戦っても、絶対に諦めない人間なんだって」

「それは……まだこれからの話だよ」

「兄さんは、そんな召喚士に呼んでもらえることを誇りに思ってるんだ」

 スラまるの方を見る。

 彼は、トロールの攻撃をひたすらに避け続けていた。


「僕は、そんなんじゃないよ」

「え?」

「才能もないし。スライムしか召喚できないし。召喚石も使えないし……でも」

「でも?」


 ……でも、全然ダメだけど、期待には応えたい。

 だから、絶対に、最後まで諦めない!


「あっ、スラまる兄さん!」

 スラじろうが叫ぶ。

 スラまるに視線を向けた。


「デカぶつが、調子に乗りやがって!」

 スラまるはトロールに向かって突進していた。

 体当たりが、トロールに命中する。


「そんなカスみたいな攻撃、無意味だぜ」

 男がにやけながら言う。

 次の瞬間、トロールの拳がスラまるに叩きつけられる。

 そしてスラまるは消滅した。


「スラまる兄さん!」

「大丈夫。帰還しただけだから」

 すぐにスラまるを召喚する。


「あのデカぶつ、やっぱり硬いな」

「スラまる兄さん」

「お、スラじろうじゃねぇか」

「スラまる、ごめん、召喚石は使えそうにないや」

「グライデン、俺に考えがある。あと何匹召喚できる?」

「どうだろう? わかんないや」

「まあいい、やれるだけやってみてくれ」

「わかった。やってみる」

 今まで、何匹もスライムを召喚したことなんてなかった。

 一体、どれだけ呼び出せるかわからない。

 でも、とにかく今はできることをやるしかない。


「出て来て!」

 両手を前にかざし、魔力を込める。

 了解の間に光が生じ、スライムが現れる。


「お、スラゆき」

 間髪入れずに次のモンスターを召喚する。

 またしてもスライムが現れる。

 スラまるは、呼び出されたスライムに声をかけていく。


「スラぼうじゃん」

「スラすら!」

「スラばんぬ」

「えっとー、誰だ?」

 スラまるでさえも知らないスライムが呼び出される。

 気づけば、召喚したスライムの数は100匹に到達していた。


「……グライ君、すごい」

 父シルヴァのそばで戦いを見守っていたセナが声をもらす。


「彼には、こんな才能があったのか」

 シルヴァも自分の目を疑う。

 これだけのモンスターを呼び出せる召喚士など、見たことがなかった。


「おいおい、こんなに要らないぜ」

 スラまるも、スライムの多さに引いてしまう。


「え、嘘? どうしよう?」

「召喚した本人が戸惑ってるんじゃねえ!」

「ご、ごめんよ」

「おい、お前ら! あのデカぶつをぶっ倒すぞ!!」

 スラまるがスライムたちの指揮を執る。


「は? なんだお前? 偉そうだな」

 スラまるのことを知らないスライムが、文句を言い出す。


「おいグライデン、みんなを従わせろ」

「できるかな?」

「できる! 当たり前だろ」

「うん」

 スラまるに背中を押され、スライムたちの前に立つ。


「みんな! とりあえずスラまるの指示に従って!」

 精一杯声を張り上げる。

 大量のスライムからの視線が怖くて、つい目を閉じてしまっていた。


「……」

 恐る恐る、目を開けて見る。


「おう!!!」

 スライムたちが一斉に返事をした。


「相変わらず人(スライム)任せだな。だけど、それで充分だ」

 そう言ってスラまるが前に出る。

 気づけば、トロールが棍棒を振り上げて、こちらに突撃していた。


「お前ら! 全員で壁を作るぞ!」

 スラまるの指示に従い、大量のスライムが積み重なっていく。

 あっという間に、目の前にスライムの壁が完成した。


「おいグライデン、俺が何を考えてるか、わかってるな?」

「もちろん。僕のことは気にしないで」

「ああ、そのつもりだ」

 すでにトロールは目の前まで迫っていた。


「行け! スライムごとぶち壊してやれ!!」

 男の指示を受け、トロールがスライムの壁を目掛けて、渾身の一撃を振るう。


「今だ! 逃げろ!」

 スラまるの声と同時に、スライム達が逃げ去る。

 スライムの壁は一瞬で無くなり、グライデンが無防備になる。


「はっはっはっ! 召喚したスライムにまで見放されるとはな。トロール、そいつをぶち殺せ!」

 トロールの棍棒が振り下ろされる。

 両腕をクロスさせ、その一撃を受け止めた。

 しかし、その威力によって、体が吹き飛ばされる。


「ぐわっ!!」

 どこまでも地面を転がっていく。

 体のいたる所が擦り切れ、血が流れる。

 何メートルも転がった所で、ようやく勢いが収まった。


「グライ君!」

「だい、じょうぶ……」

 何とかその場で立ち上がった。


「は!? 嘘だろ? 何で生きてるんだ?」

 男が驚きの声をあげる。


「僕は、生まれつき、体が丈夫なんだ!」

「は? 何だよそりゃ。だったらもう一発だ。行けトロール!」

「やらせねえよ」

 スラまるがトロールに飛びかかる。

 他のスライム達も、一斉に飛びかかる。


「そんな雑魚どもの攻撃なんて、効くわけねぇだろ」

「戦ったことあんのかよ?」

 スラまるが男に向かって言う。


「は?」

「お前、100匹のスライムと、戦ったことあんのかよ!?」

 スライムたちがトロールに突撃していく。


「これは、いけるぞ」

 シルヴァがつぶやく。


「え? お父さん、どういうこと?」

「1匹の攻撃は1ダメージしか入らないかもしれない。だが、100匹でやれば100ダメージだ」

「100ダメージ……」

「さすがのトロールも、耐えきれんだろうな」

 スライムたちの攻撃が、積み重なっていく。


「おい、トロール! 何やってんだ!? おい!!」

 シルヴァの言葉通り、トロールは消滅した。

 

「う、嘘だろ?」

 男が手にしていた召喚石が、崩れ落ちる。


「お前、覚悟しろよ!」

  スラまるが男に詰め寄っていく。


「く、くそ! トロールを倒したくらいでイキがるなよ」

 男が杖をかざす。


「スラまる! 気をつけて!」

 そう指示を出した時には、敵のモンスターが召喚されていた。

 それは、大きな鳥のモンスター、ゴーバードだった。


「熟練の召喚士はな、ちゃんと逃げるだけの魔力は残しておくもんだ」

 男はゴーバードの背に乗り、飛び去って行った。


「逃げるんじゃねえ!」

 スラまるが叫ぶが、すぐにゴーバードの姿は見えなくなった。


「グライデン君、助かったよ」

 シルヴァが立ち上がって言う。


「スライムたちのおかげですよ。みんなありがとう!」

 100匹のスライムたちは、嬉しそうに帰還していった。


「いや、これだけのモンスターを召喚した君のおかげさ」

「うん。すごかったよ! グライ君」

「そ、そうかな?」


 こんなに褒められることなんて無かったから、なんだか歯がゆい感じがする。


「私の考えが甘かった。またあんな奴らが来たら追い返せない。これは君に預かってもらおう」

 シルヴァが召喚石を差し出してくる。


「でもそれ、命より大切なものなんじゃないですか?」

「そうだ。だから信頼できる、君に託したいんだ」

「そうよ。グライ君、受け取って」

「でも、僕じゃ使いこなせない……」

「いいから、早く受け取りなさい!」

 セナが圧をかける。


「は、はい」

 シルヴァから召喚石を受け取った。


「今は使えなくても、君なら使えるようになるさ」

「はい、頑張ります」


 さっき試したときは、何の反応もなかったけど、僕に使えるようになるのかな?

 でも、とにかく頑張るしかないか。


「おじさん、ありがとう!」

「うん、頼んだよ」


 こうして、波乱の幕開けから、召喚士としての冒険が始まった。

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でくのぼうの逆襲 ~スライムしか呼べない召喚士、スライムを大量に召喚する~ もさお @MOSAO2525

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