第2話 召喚石を狙う者
「グライくんじゃない?」
声をかけてきたのは、幼なじみのセナだった。
僕のことを名前(一部省略だけど)で呼んでくれる数少ない友達だ。
「セナちゃん、こんにちは」
「さっきうちの教会に、スカイさんが来てたんだけど、会えたかな?」
彼女の父親は、この町の教会で神父をしている。
「うん、やっぱりすごかった」
「おい、さっきのヤツの何がすごいんだ?」
「あら、スラまる君。こんにちは」
セナちゃんも、スラまるとは何度も会っていて、よくおしゃべりしてる。
「スカイさんは、1人でも国王軍に勝てるそうよ」
「そんなにすごいモンスターを呼べるのか?」
「すごいモンスターを、同時に何匹も召喚できるんだ」
スカイさんのすごさを、スラまるに説明する。
「へー、それってすごいことなのか?」
「もちろんだよ。普通は3匹くらいが限界なんだ」
スカイさんの召喚能力はすごい。
でも、さっき言っていた通り、もしスライムしか召喚できなくても、めちゃくちゃ強いんだろうなと思う。
だから、僕も少しだけ、強くなれるかもって希望が持てる。
「そういえば、スカイさんは教会に何をしに来たの?」
セナちゃんに質問する。
「なんか、お父さんとちょっと揉めてたみたいなの」
「揉めてた?」
「うちの教会にある召喚石が、誰かに狙われてるとか」
「セナちゃんとこの教会に、召喚石があるの?」
「そうみたい。それを守ってくれるって言うんだけど、お父さんは預けるわけにはいかないって断っちゃって……」
確かに、召喚石を使えば強力なモンスターを呼び寄せて、いろんなことができる。
悪いヤツの手に渡ったら、悪用されるかもしれない。
「召喚石を利用した事件が増えてるらしいから、気をつけないとね」
「うん」
「スカイのやつめ。召喚石を守るつもりだろうが、それはお前のいる所に召喚石があるって教えているわけだ」
背後からいきなり声がした。
振り向くと、黒い服に身を包んだ、見るからに怪しい男が立っていた。
「君がセナちゃんだね。君のお父さんと話がしたいんだ。紹介してもらえるかい?」
男がセナに近付く。
「い、いやです……」
「そんなこと言わずに、さっさと呼べよ」
男が、早速本性を現した。
「嫌がってますよ。やめてください」
勇気を振り絞って、男に話しかけた。
「なんだお前」
男がこちらを睨んでくる。
怖くて声が出なかった。
「こいつは召喚士のグライデンだ。そして俺はスラまる」
スラまるが僕の代わりに声をあげる。
「消えろ」
男は、杖をスラまるに叩きつける。
ダメージを受けたスラまるが消えてしまう。
「スラまるくんっ!」
「大丈夫だよ、セナちゃん。帰還しただけだから、また呼び出せる」
召喚モンスターは、召喚士の魔力を原動力として動く。
体力が尽きても、召喚士のMPが減るだけで、モンスターは無傷で帰還する。
「お前みたいなクソガキ、相手するつもりはねぇよ」
「じゃあ、俺ならどうだ?」
ジータの声だった。
「スカイがいるって聞いて戻ったら、怪しいおっさんしかいねえじゃん」
「ジータ君、気をつけて! こいつヤバそうだよ」
「でくのボウは黙ってな。こんなヤツ、俺が瞬殺してやるよ」
「いいねー。生意気なクソガキをボコすのが、俺の趣味なんだ」
「こいつを見てもそんなことが言えるのか?」
ジータが杖をかざす。
空中に光の輪が生じ、ワイバーンが召喚された。
「すごい」
セナがつぶやく。
ワイバーンは、大きな両翼を羽ばたかせ、上空から男を見下ろしていた。
翼から生じる風が、こちらに吹き付ける。
「見ろよおっさん、クソガキにやられるってのはどんな気分だ?」
さすがは性格の悪いジータ。
煽りの才能もレベルが高い。
「クソガキにしてはやるじゃねえか。なら、こいつを使ってやろう」
男がポケットから何かを取り出す。
それは、召喚石だった。
「ほらよ、出てこい!」
男が召喚石をかかげる。
すると、地面に大きな黒い影が生じる。
その影の中から、大きな手が這い出て来た。
現れたのは、巨大なトロールだった。
緑色をした一つ目の巨人は、右手に巨大な棍棒を持っていた。
「な、なかなかデカいじゃねーか……」
男が召喚したトロールは、ワイバーンの数倍デカかった。
「だがな、そんなとろいやつの攻撃、ワイバーンには当たらねえぞ」
ワイバーンが空中を飛び回る。
「ふっ……」
男は不適な笑みを見せる。
「やれ! ワイバーン!」
ワイバーンがトロールに向かって火の玉を吐く。
火の玉が直撃するが、トロールは微動だにしなかった。
「おいお前、なんかしたか?」
男が挑発する。
「お前、ムカつくヤツだな! ワイバーン!」
ワイバーンが男に向かって火の玉を放つ。
「よく分かってるな。召喚士を狙うのが定石だ」
トロールが男の前に立つ。
飛んでくる火の玉を、トロールが受け切った。
「だがそれは、お互い様だ」
トロールが、ジータに向かって突進する。
「ジータ君! 危ないわ!!」
セナちゃんが叫ぶ。
「ちっ、ワイバーン!」
ワイバーンがジータの元へと飛んでいく。
トロールが棍棒を振り下ろす。
その一撃は、ワイバーンに直撃した。
「ワイバーン!!」
ワイバーンは、消滅した。
「おいクソガキ。誰を瞬殺するって?」
「……やるじゃねーか。楽しかったぜ」
そう言ってジータは走り去って行った。
「……行っちゃった」
セナちゃんは唖然とした様子だった。
「仕方ないよ。多分もう召喚する魔力が残っていないんだ」
男がこちらに近づいて来る。
「く、来るな!」
「うるせーな。お前に用はないんだよ」
男の背後から、トロールも近づいて来る。
どうしよう? スライムじゃ勝てない……。
「そこまでだ!」
誰かの声が響きわたる。
「お父さん!」
声の主は、セナの父シルヴァだった。
「お前の狙いはこの召喚石だろ? 子供たちには手を出すんじゃない」
シルヴァの手には、召喚石が握られていた。
「潔いじゃねぇか。助かるぜ」
男が、シルヴァに近づいて行く。
「ダメよ、お父さん。それは命より大事なものって言ってたじゃない」
「そうだ。命より大事なものだ。だから、持って行くなら私を殺してからにしろ!」
シルヴァが杖を掲げる。
「良い覚悟だな。約束通り子供には手を出さないでやる。そしてお前を殺す」
「そう簡単にはやらせんよ」
シルヴァが魔法を放つ。
杖の先から火炎弾が放たれ、男へと飛んでいく。
「無駄だ」
トロールが男の前に立ち、火炎弾を受け止める。
「やれ!」
トロールがシルヴァに向かって行く。
「逃げて! お父さん」
「悪いな、セナ。逃げるわけにはいかんのだよ」
トロールの棍棒が、シルヴァの頭上に振り下ろされる。
「お父さんっ!!」
セナちゃんの悲痛な声が響く。
「スラまる」
とっさにスラまるを、シルヴァの近くに召喚した。
「どけっ」
「ぐあっ」
スラまるはシルヴァに体当たりをして、体を弾き飛ばした。
トロールの一撃は、スラまるに直撃し、スラまるは消滅した。
「シルヴァさん! 大丈夫ですか?」
「私は大丈夫だ。君は逃げなさい!」
シルヴァが叫ぶ。
気づけば、彼が握りしめていた召喚石が足元に転がっていた。
召喚石を拾い上げる。
「これは……」
「おいクソガキ、そいつを俺によこせ!」
「そういえば、君も召喚士だったね。もしかしたら、その召喚石を使うことができるかもしれない」
「無理だよ。僕なんかに」
「グライ君、お願い、やってみて」
背後からセナちゃんが言う。
多分無理だ。
無理だけど……やるしかない!
正面からトロールが迫って来る。
両手を召喚石にかざし、深呼吸をする。
全ての神経を集中させ、魔力を込めた。
「お願い! 出て来て!!」
かざした両手の間から、光が生じる。
そして、その光の中からモンスターが現れる。
召喚されたのは、スラまるだった。
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