でくのぼうの逆襲 ~スライムしか呼べない召喚士、スライムを大量に召喚する~

もさお

第1話 あだ名は「でくのボウ」

「グライデン、コツコツやっていけば、いつかは成功するよ」

 これは僕の父さんの言葉だ。

 懐かしい。ずいぶん前に言われたのに、今でも鮮明に覚えてる。

 コツコツやればうまくいく。

 僕もそう思ってる。

 でも、結果が出るのはまだ先みたいだ。


「ほりゃ、グライよ。やってみなさい」

 これはおじいちゃんに教わって、初めてモンスターを召喚したときだ。

 僕のことをグライって呼ぶ人は多い。

 グライデンって名前、ちょっと長いんだよね。


「こ、こうかな?」

「そうじゃ、そのまま魔力をこめてみなさい」

「うん!」

 かざした両手の間に光が生じる。

 しばらくして、ポンッという音とともに、その光から何かが出現した。


「おお! さすがは我が孫。良い筋をしておる」

「こ、これは?」

 足元で青い塊がうごめく。


「それはスライムというモンスターじゃ。初歩の初歩じゃが、初めてにしては上出来じゃ」

「スライムかー。よろしくね!」

「おいてめえ、急に呼び出して何のつもりだ? ぶっ殺すぞ」

「……」

「まあ、モンスターにもいろんな性格があるからの」

 口の悪いスライムは、しばらく経つと消えていった。


「この調子でいろんなモンスターを召喚するんじゃ。そして、最強の召喚士となって、国王に仕えるんじゃぞ」

「最強の召喚士?」

「そうじゃ。お前ならできる!」

「うん! コツコツ頑張るよ!!」

 あの日から10年間、毎日鍛錬を続けてきた。

 でもまだ僕は、スライムしか召喚できていないんだ。


「おい、でくのボウ。召喚してみろよ」

 こいつはジータ。同じ召喚士学校の生徒だ。

 ジータはすごく優秀なんだけど、僕のことをバカにしてくるんだ。

 ちなみに、『でくのボウ』っていうのは、僕の名字の『ボウ』から派生したあだ名で、役立たずって意味らしい……。


「み、見てなよ」

 両手をかざし、魔力をこめる。

 光が生じ、召喚されたのは……やはりスライムだった。


「ぎゃははは! こいつまだスライムしか召喚出来ないの」

 ジータが周りの生徒と一緒に笑い転げる。


「体はでかいくせに、使えないやつだよな」

 何も言い返せない。まさに、でくのぼうだ。


 ちなみに、いつも出てくるスライムは、スラまるっていう名前だ。

 この10年間、毎日何回も召喚し続けてきた。

 最初の1年はこんな感じだった。


「おい、またかよ!! こっちにも生活があるんだよ!!」

「ご、ごめんなさい!!」


 2年目はこんな感じ。

「……なあ、そろそろスライムは卒業してくれよ」

「はい、頑張ります!」

 初めの1年で、怒りを通り越して、あきれられちゃったみたい。

 でも、一緒にいる時間が長いから、いろいろ話を聞くこともできた。

 スラまるは大家族で、親戚もたくさんいるらしい。

 スライムがそんなに召喚されることはないらしくて、周りからは英雄扱いされてるみたい。

 戦闘は一回もしてないんだけどね。


 3年目以降は、スラまるの部屋も用意してあげて、快適に過ごせるよう整えてあげたんだ。

「なあグライデン。たぶん俺、人生で召喚されてる時間の方が長くなったわ」

「そ、そうなんだ」

「……ま、その調子で頑張れよ」

「う、うん。良かったら、部屋でジュースでも飲んでて」

「ああ、またな」

「ま、またね……」


 そして今日、召喚士学校を卒業することになった。

 実技は最低点だったけど、筆記試験と、基礎魔力の試験で頑張った分、何とかなったみたい。

 ちなみに、スライムしか召喚できずに卒業したのは、僕が初めてみたい。

 そりゃそうだよね。


「町の教会に、伝説の召喚士が立ち寄ってるらしいぞ」

 これまでのことを振り返っていたら、おじいちゃんが声をかけてきた。


「伝説の召喚士?」

「スカイとかいったかの」

「えっ!? あのスカイが来てるの!?」

「アドバイスでも聞けるかもしれんぞ」

「そうだね! 行ってきます!!」

 スカイという人物は、誰もが知る伝説の召喚士だ。

 どこの国にも属さず、数名の仲間と一緒に世界を飛び回っている。

 でも、そんなすごい人が、どうしてこの町に?


「おい、でくのボウ」

 ジータだった。

 声のした方を振り向く。


「や、やあ」

「お前、卒業できたらしいな」

「うん。なんとか……」

「ふんっ、お前なんかがな」

 ジータは杖を取り出し、魔力を込めた。

 空中に光の輪が出現し、その中からモンスターが飛び立つ。


「見ろ! これが俺のワイバーンだ」

「す、すごいなぁ」

「お前がスライムばっか呼んでる間に、俺はここまで鍛練してきたんだ。同じ卒業生だと思われたくないな」

「……僕だって、鍛練してきたさ」

「だったら見せて見ろよ! その成果を」

「……」

 努力の量だったら、誰にも負けない自信があった。

 だけど、僕はジータのように上達できなかった。


「ほら! 早く! やってみろよ!!」

「み、見てなよ」

 両手を前にかざす。

 目を閉じて、今までにないくらい、意識を集中させる。


 お願い!!


「ぎゃはははは!」

 ジータの笑い声が響く。

 目を開くと、そこにはスラまるがいた。


「こいつ、なんで笑ってやがる?」

「なんでもないよ。気にしないで」

「戻れワイバーン」

 ジータが召喚したモンスターを帰還させる。


「俺はドラゴンだろうがトロールだろうがすぐに呼べるようになるぜ。お前は一生スライムと遊んでろ」

 そう言ってジータは去って行った。


「なんだあいつ。ムカつくな。やるか?」

「やめなよ。ジータは、僕と違って優秀なんだし」

 そう。僕みたいな出来損ないとは違うんだ。


「悔しくないのか?」

 背後から聞いたことのない声がする。


「え?」

「誰だ?」

 スラまると同時に振り返る。

 そこには、伝説の召喚士スカイが立っていた。

 銀髪で、背が高く、スラリとした体型。

 そして、整った顔立ちに鋭い目。間違いない。


「スカイさん!」

「誰だ? それ」

「質問に答えろ。悔しくないのか?」

 ジータとのやり取りのことだろう。


「……はい。だって、事実だし」

 本当は悔しかった。

 見返してやりたかった。

 だけど、努力だけじゃどうにもならなかった。


「僕、スライムしか呼べないんです。召喚士としての才能がないんです」

「だからどうした?」

「え?」

「俺だったら、スライムでも、さっきの小僧に勝てるな」

「そ、そうかもしれないですけど」

「お前に足りないのは才能じゃない」

「じゃあ、何が足りないんですか?」

「それは自分で見つけろ」


 足りないのは、才能じゃない?


「スカイ、いつまで話してるのよ」

 スカイの仲間の女性が声をかける。


「悪いなラミア。もう行くよ」

 そう言って、スカイは右手を天に掲げる。

 すると、空から光が差し込み、ドラゴンが現れた。


 す、すごい……。


 ドラゴンは、スカイとラミアを乗せて飛び立った。


「あいつ偉そうだな。襲撃するか?」

 スラまるが、とんでもないことを言う。


「絶対にやめて」

 無意識に、スラまるの頭をわしづかみにしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る