私立スタート学園

にゃべ♪

高校デビューは危険なミッション

 春、4月。俺は新しく通う高校の校門の前に立っていた。学校名は『私立スタート学園』。自由な校風で、様々な生徒が通っていると言う話でこの学校を選んだのだ。ただ、この学校を選んだのが校区で俺1人だったのもあって、ちょっと一歩が重い。


「友達、出来るかな……」


 ちなみに、何故誰もこの学校を選ばなかったのかと周りに聞いてみると、みんな何となくと言うふわっとした理由だった。モノ好きが選ぶ学校と言う評判だから、俺みたいなヤツしか希望しなくても不思議ではないのかも。

 これから始まる学園生活でうまくやって行けるのか不安で動けないでいると、背後から突然声をかけられた。


「何やってんだ、早く入れよ」

「ひいい! ごめんなさあい!」


 急かされた俺は何も考えずに一歩を踏み出す。こうして校門に入ったところで声の主の正体が気になった俺は振り返った。

 するとそこには、可愛らしい白猫が一匹いるだけ。他に誰もいないのか俺はしっかり周囲を確認する。


「何やってんだよお前。まずはクラス分けを見なくちゃだろ」

「うわああ! 猫がシャベッタアァァァ!」

「何驚いてんだよ。ここじゃ普通の事だぞ」


 猫はマルクと言う名前らしい。彼いわく、この学校では沢山の人以外の種族も通っているのだとか。猫や犬はまだ普通で、他の動物や亜人や妖怪、モンスターも通っているらしい。


「嘘だろ? 俺そんなの見た事ないんだけど」

「じゃあ、まずクラス分けの掲示板まで行ってみろよ」


 マルクに急かされて人だかりになっている場所まで行くと、マジで人以外の種族が多かった。妖怪も、モンスターも、妖精も、精霊も、勿論動物も……まるでファンタジー映画のワンシーンのようだ。

 俺が硬直していると目の前の地面に魔法陣が浮かんで、魔法使いのコスプレをした人が現れる。


「やあ、確か君は新入生のひろとも君だね。ようこそスタート学園へ。私はこの学園の教師のマルドゥスだ。君のクラスは1年A組だよ」

「あ、えっと、はい」


 先生は杖を軽く振って俺を教室に転移させてくれた。どうなってんのこの学校。情報量が多くて戸惑いながらも、黒板に席が記載されていたのでその通りに自分の席に座った。

 見渡してみると、クラスメイトに普通の人間がいない。人間ぽいのがいたと思ったらケンタウロスだったり、鬼だったり、河童だったり。


「おかしいな。入試を受けに来た時には普通の学校だった気がしたのに」

「そりゃ、そう言う呪いをかけてたんや」


 俺の独り言に、隣の席の全身真っ青な男子が話しかけてきた。彼はUMAに属する人らしい。ビックフッドとかそう言う類のアレだ。話によると、そう言う存在は人に擬態して人間の生活に普通に馴染んでいるらしい。昔上映していたタヌキの映画のような生活をしているのだとか。

 入試の時は、試験を受ける人間にだけ学校の生徒が全員人間に見える魔法を使っていたのだとか。


「詳しいんだね」

「兄ちゃんもこの学校に通ってるからな。分からん事あったら何でも聞いてや」


 青い男子はそう言うとにっこり笑う。動物や妖怪に比べたらまだ人間に近いので安心出来る。俺はすぐに自己紹介をして仲良くなった。


「あ、俺は真尋智樹。よろしく」

「ワシはルースーや。よろしくな」


 その後、教室に先生が入ってきた。それが大蛇。全長が3メートルはありそうな白蛇だ。うにょーんと上体を伸ばして俺達クラスメイトの顔を見渡す。


「えー、来るはずだった担任が今日はまだ来ていないので、今日は教頭の私が臨時でこのクラスの担任代理をします。それではみんな、入学式があるので全員体育館に」


 蛇は教頭だった。何でもありすぎるだろ。て言うか、見事に人間がいない。俺、何でこの学校に合格したんだろ……。学校側は俺に何を求めているんだ……。

 その後は入学式を経てホームルームがあって終了する。色々注意事項のプリントとかも回ってきたけど、あの妖怪や動物達、文字とかも読めるんだな。入試では普通に各教科の試験とかもあったけど、あれをクリアしてるんだ。俺だけ別のテストでなければ。


「動物や妖怪達って、意外と賢こかったんだ……」


 帰宅して部屋に戻った俺は、改めてクラスメイト達の学力に感心する。おばけは試験も何もないって話もあったけど、少なくともこの学校は試験も部活もあるんだな。


「そうだ、部活!」


 俺は貰ったプリントの中から部活紹介のやつを引っ張り出した。眺めてみると、運動部はメジャーな野球部からマイナーなカバディ部まで一通り揃っていた。文化部も美術部からオカルト研究部まであり、ありとあらゆる生徒の趣味を網羅している。

 入る部活なんかねえわなんて言わせねえよと言った凄みすら感じてしまう。


「どれも魅力的だけど、何がいいんだろう」


 部活は兼部も認められているものの、逆に俺が並列作業に向いていない。なので、ひとつに絞ろうとして頭を悩ませてしまう。中学の時は帰宅部だったからなおさらだ。高校ではやっぱり何かしらの部活に入りたい。青春ってやつを楽しんでみたい。高校デビューってのをしてみたい。

 変な学校だけど。ものすごく変な学校だけど。


 翌朝、結局部活は絞りきれないまま俺は登校する。喋る動物達も人ならざる者達も学園に入るまではその本性を表さない。一歩校門に足を踏み入れたところで真実の姿を表すのだ。

 一体この学園はどう言う流れで設立されたのだろう。ネットで調べても本当のところは分からなかった。当然だ。ネットは情報を上げる人がいなければ、知りたい事は空白のままなのだから。


 この学園で青春をエンジョイしたいと思った俺は、全ての非日常を受け入れる。きっとそう言う耐性がある者しかこの学園は受け入れないのだろう。逆に言えば、俺はこう言う学園生活を何処かで望んでいたのだろうな。

 まず当面の問題は入る部活だ。俺が窓の外の景色を見ながらため息をついていると、クラスメイトが近付いてくる。その気配の方に顔を向けると、視界が捉えたのはメガネのエルフさんだった。確か、イーファって名前だったかな?


「何悩んでんの?」

「や、部活をね。どこに入ろうかなって」

「何でもいいのよ。こう言うのはもう勢いだから」


 彼女は俺に優しく微笑みかける。エルフって長寿種って言うから、目の前のイーファも300歳とか500歳とかなのだろうか。いや、それ以上かも知れない。リアルエルフと知り合いになったなんて言っても、中学の同級生は絶対に信じないだろうな。

 場が和やかな雰囲気になった時、突然空からUFOが落ちてきた。窓の外を眺めていた俺は目が点になる。何で次から次にこんな訳の分からない展開にッ!


「すっごーい! 行ってみよっ!」

「あ、うん……」


 目を輝かせるイーファに腕を引っ張られて、俺達はUFOが落ちてきた運動場に移動する。当然のように周りは野次馬で溢れていた。その光景はさながら百鬼夜行のようだ。様々な異形の存在や動物達が見守る中、UFOから宇宙人が降りてくる。

 グレイタイプだけど、身長は180センチくらいあるだろうか。グレイは背が低いものと思っていた俺は、この現実に軽くカルチャーショックを受けた。


「意外と大きいね」

「よく見て、アレ」

「えっ?」


 イーファが更に驚いているので、俺は視線をグレイに向ける。すると宇宙人が頭を外し、皮を脱ぎ始めた。そう、グレイに見えていたのは宇宙服だったのだ。俺はこの謎展開に言葉を失う。

 グレイの中の人は金髪で白人のような細マッチョなイケメン。頭には小さな角が二本あったけど。そんなハンサムが現れたものだから、女性陣からは黄色い悲鳴があちこちで聞こえてくる。俺の隣のエルフもその1人だった。


「キャーッ!」


 逆に正体が分かって白けた俺は1人で教室に戻る。しばらくすると生徒達が戻ってきてチャイムが鳴った。ホームルームの時間だ。そして、教室に入ってきた担任が、さっきの宇宙人だった。あんた担任だったんかーい!


「さっきは騒がせてしまって悪かった。このクラスの担任になったミ・ミーだ。よろしく頼む」


 角のイケメン担任はクラスの出欠を取ったり連絡事項を話したりと、普通に教師の仕事をこなしていく。先生の自己紹介によると、出身星は別の銀河らしい。あんまり詳しい事は話さなかったけれど、それがミステリアスだとクラス内の女子は更に盛り上がっていた。

 イケメンは人外や動物達にもモテるんだなあ。


 ホームルームが終わった後、俺はそのミー先生に呼び出される。一体何の用だと言うのだろう。先生の後をついていくと、生徒指導室に辿り着いた。


「ここだ。入ってくれ」


 俺が部屋に入ると、先生はカチャリとドアの鍵を閉める。この予想外の流れに、俺の思考回路は最悪の事態を描き始める。一体これからどんないかがわしい事が行われるのかと、最大限に警戒した。

 すると、先生は俺の正面に座りズイッと顔を近付けてくる。


「智樹君、協力してくれ」

「はい?」

「実は、僕はこの学園を探るためにやってきたエージェントなんだ。君の協力が必要なんだよ。そのために君をこの学園に入学させたんだ」

「話が見えないんですけど……」


 俺が理解を放棄した顔をしていると、先生は軽く咳払いをして説明を始めた。


「僕は平行世界の別の宇宙からやってきた。そして、この学園がやろうとしている事を止めないと故郷の宇宙が滅ぶんだ。だから因果律をいじって人間の君を学園に入学させたんだよ。この学園唯一の人間になるようにね」

「は、はあ……」

「智樹君、僕と一緒に危ない橋を渡ろう!」


 先生はサラッとヤバい言葉を口にする。参ったなぁ。なんだかとんでもない事に巻き込まれてしまったぞ。俺はなんてトラブル体質なんだ。

 ただ、こんな危ない事に付き合う義理はない。俺はすぐに拒否の返事を返した。


「嫌です」

「いいのかい? 僕は君の恥ずかしい秘密を全て記録している。バラまくよ?」

「ちょ、それ詐欺メールの手口じゃないですか」

「詐欺と違うのは、僕がちゃんと本物を持っていると言う事だよ」


 先生はそう言うと、立体ホログラムを起動させる。そこには確かに俺の恥ずかしい映像が映し出されていた。ダメだ。この映像を抑えられてしまっては従うしかない。


「分かりました。協力します」

「そう来なくっちゃ。データは僕の仕事が終わったら破棄するから安心して」

「うう……。どうしてこんな事に……」


 こうして、俺は先生の指令のもとに様々なミッションを遂行する事になった。不審に思われないように、俺の行動は部活動の一環と言う事にされる。部活名は『学園秘密クラブ』。数々の学園の謎を探る部活だ。これが公認されるんだから、この学園は懐が深い。ガバガバと言っていい。

 学園の秘密は手強くて、何度もスパイ行為がバレそうになったり、危険な目にも遭う。けれど、それを乗り越える度に技術も磨かれていき、俺は段々とミッションをこなすのが楽しくなってきた。


 そう、これは後に世界を救う偉業を成し遂げる俺の始まりの一歩になったのだった。



(おしまい)

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