4-05.The Second Game 4
金髪の男性。名前はジェームズさん。
警察署に到着した後、彼は大袈裟な身振り手振りを交えた説明を始めた。警察の方は胡散臭そうな顔をしていたけど、とりあえず現場を見ることになった。
現場に戻った後もジェームズさんの独壇場。
最初の挙動不審はお亡くなりになっており、僕と神楽さんは全く喋っていない。
「……騙された気分ね」
「そうだね」
僕は神楽さんの呟き声に同意した。
メタ的に考えると、ジェームズさんの発言に意味があるはずだけど、さっぱりピンと来ない。彼はひたすら「歩いてたら突然!」とか「恐ろしい!」とか言っている。
ひとつ気になる点をあげるならば、やたらと大袈裟なところだろうか。
喋り方。身振り手振り。どれも劇団員みたいにわざとらしくて、噓くさい。
(……犯人こいつじゃね?)
クエストの名前はホワイトチャペルの真相。
この単語でピンと来るのは、切り裂きジャックだ。
アニメやマンガを好む人なら「ジャック・ザ・リッパー」という単語を一度は目にしたことがあるだろう。あいつのことである。
元ネタは、とあるスラム街で起きた連続殺人事件。
察するに、クエストのクリア条件は犯人をどうにかすることなのだろう。
(……とりあえず、イベントを進行させようか)
その後、イベントはほぼ全自動で進行した。
ジェームズさんが大騒ぎして、次の場所に移動して、またジェームズさんが大騒ぎする。
死体は全部で三回発見された。行く先々で事件の現場に出くわすものだから、僕達かジェームズさんは、死神か名探偵のどちらかなのだろう。
これだけ連続で死体を発見すると、警察に疑いの目を向けられそうなものだけど、警察の反応は淡泊だった。またか、という感じだ。
イベントは一時間ほど続いた。
最終的に僕達はジェームズさんと別れ、最初の広場に帰ってきた。
広場には活気があった。
NPCっぽい姿はもちろん、武装した人物……恐らくはプレイヤー達の姿もある。
(……プレイヤー同士が会話してる。情報共有かな?)
僕は広場を注意深く観察する。
これだけプレイヤーが集まっているのだから、黒衣の化物は現れていないのだろうけど……それはそれでおかしな話だ。最初、アッシュさんはどうして襲われたのか。さっぱり分からなくなった。
(……ボスの出現には条件がある?)
例えば初回だけ広場に登場する。
集まった人物の中から確定で一殺するクソゲー仕様。
「ねぇ」
神楽さんに腕を引かれた。
「ごめん、ちょっと考え事してた」
「それは構わないのだけれど……少しは共有してくれると嬉しいわね」
確かに、一人で考え込み過ぎてた。
僕達は二人で行動しているのだ。情報は共有した方が良い。
「神楽さん、何か気が付いたことある?」
「……ジェームズが怪しいと思う」
僕も同意見だ。
「クリア条件は、彼が犯人だと暴くこと……なのかな?」
「私はそう思うけれど、あなたは違うの?」
「……ちょっと違和感がある」
僕は広場の中央に向かって移動する。
そのまま人混みに紛れ、他の人達と同じようにして神楽さんを見た。
「目立ちたくない」
僕は不思議そうな顔をした彼女に、一言だけ伝えた。
「確かに、出入口で立ち止まっていたら目立つわね」
「……そうだね」
本当の理由は違う。
それを説明する為には、ちょっと話をする必要がある。
「このクエストの名前は、ホワイトチャペルの真相。神楽さん、何かピンと来る?」
「ごめんなさい。さっぱり分からないわね」
「切り裂きジャック。あるいは、ジャック・ザ・リッパーって知ってる?」
「……名前だけなら」
「そっか」
僕は解説を始めた。
元ネタはホワイトチャペルという地域で起きた連続殺人事件。犯人が警察や新聞社に手紙を送り付けたことで、一連の事件が大きく取り上げられた。
ただし、それはおかしなことだ。
当時のホワイトチャペルはスラム街であり……まあ、治安は最悪だった。たかだか連続殺人事件のひとつやふたつで大騒ぎするような、平和な場所ではなかったのだ。
一部には、現地の惨状を伝える為、記者が一芝居打ったという説もある。
実際、この事件をきっかけに、多くの人々がスラムに目を向けるようになった。
最も大きな理由は──
「この事件は、未解決なんだ」
犯人が分からない。だからこそ多くの憶測を呼び、人々の関心を得た。事件の真相に対する関心が高まれば、関連する書物が売れる。メディアからすれば「おいしい」題材というわけだ。もちろん、今の僕達にとっては最悪だけどね。
「……ボスを倒すしかないということ?」
「分からない。実はクリア不可能みたいなクソゲー仕様かもしれないけど……」
僕は考えながら喋る。
「犯人の発見はミスリードで、他の条件があるのかも」
「……他の条件?」
「僕は何も思い付かないけど、神楽さんはどう?」
神楽さんは口元に手を当て、考え込むようにして俯いた。
しばらく待ったけれど発言は無い。僕はぼんやりと空を見上げ、考えた。
最初から振り返ることにしよう。
ゲームのクリア条件は三つ。
ボスの討伐。クエスト攻略。最後の一人になるまで生き残る。
このゲームに参加した者は、ライフを没収されている。
ゲームに失敗すれば問答無用で死ぬ。一方で、最も多くの報酬を得る方法は、自分以外のプレイヤーを皆殺しにすること。
プレイヤー達は疑心暗鬼に陥った。
しかしアッシュという有名な実力者が声をかけたことで、協力してクリアする方向に進みかけた。その瞬間、黒衣の化物が現れ、アッシュを殺害した。
プレイヤー達は逃げた。
僕と神楽さんは悲鳴を聞き、NPCのジェームズと出会った。
そこは、殺人事件の現場だった。
僕達はジェームズにあちこち連れ回され、三回、死体を目にした。
死体は男が一人と女が二人。
どれも三十歳前後の金髪だった。他の共通点は分からない。
ジェームズは常に大騒ぎしていた。
明らかに怪しかったけれど、確たる証拠は無い。
やがて、僕達は広場に戻ってきた。
ジェームズとは別れた。次の行動は指示されていない。
広場には大勢のプレイヤーが居た。
恐らく、皆が同じイベントを進め、ここに戻った。
(……さっぱり分からない)
何かフラグを見落とした?
それとも重要なイベントをスキップした?
(……他のプレイヤーと共有しよう)
全てのプレイヤーが同じイベントを体験したのか。あるいは人によって違うルートを辿って広場に戻ったのか。それを確かめるだけでも、大きな手掛かりとなる。
僕は話しやすそうな相手を探して周囲を見た。
その瞬間──
「みんな! 聞いてくれ!」
広場の中央。特設ステージみたいな高い場所があり、プレイヤーと思しき二人組が立っていた。
「神楽さん、あれは知り合い?」
「知らない人よ」
組織の人間ではない。
それだけを理解して、僕は二人を見る。
──誰かが悲鳴をあげた。
その理由は直ぐに分かった。
ステージに立った二人組。
その背後に、黒衣の化物が現れた。
「……なるほど」
現状、あまりにも情報が少ない。
だけど、だからこそ、今ある情報が全てなのだと仮定したら──
「そういうことか」
ラノベの主人公みたいになりたくて 下城米雪 @MuraGaro
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