4-04.The Second Game 3

 二つ目の角を曲がった直後、神楽さんが両手で口を押えた。

 僕も少し遅れて理解する。端的に言えば、殺人事件の現場だ。


 金髪の女性が血を流して倒れている。

 その付近に、これまた金髪の男性が立ち、おどおどしている。


「……隠れよう」


 僕が提案すると、神楽さんは無言で頷いた。


「僕が見る」


 だから君は見なくても良い。

 そういうつもりで彼女の前に立つと、手を引かれた。


「……大丈夫」

「背後を警戒してくれると助かる」


 神楽さんは少し不満そうな顔をした後、こくりと頷いた。

 

「……」


 あえて何も言わず、現場に集中する。

 パッと思い浮かんだ可能性はふたつ。


 ひとつ、彼が犯人である。

 第一発見者を疑え、というのは誰の言葉だっただろうか。とりあえず彼が犯人だと仮定して観察する。うろうろしながら周囲を見て……誰か探しているのかな?


 ふたつ、たまたま通りがかった。

 正直こっちが正解だと思う。被害者と一緒に行動していたならば、彼が無傷なのは変だ。既に三十秒ほど観察しているけど、被害者を心配する様子が無い。多分、赤の他人なのだろう。


(……誰か来た)


 今度は黒髪の男、二人組。

 金髪の男性はスーツみたいな服装だけど、後から現れた二人は、とてもファンタジーな衣装を身に付けていた。


「神楽さん、あの二人、知ってる?」


 僕は囁くような声で言った。

 彼女はゆっくりと曲がり角から顔を出す。


「……知らない人よ」

「ありがと」


 僕は再び様子を見る。

 何か話しているけど、声は聞こえない。


(……移動した? 死体を放置して?)


 何やら慌てた様子で走り去った。

 金髪の人がどこかに案内しているようにも見えたけど……どういうことだ?


「どうなったの?」

「……急に移動した」


 僕は観察を中断して神楽さんを見る。


「追跡しようと思うんだけど、どうかな?」


 神楽さんは悩む素振りを見せた。

 何か引っかかる点があるのだろうか?


 思考する。そして数秒後──悲鳴。

 僕は慌てて曲がり角から顔を出す。


「……は?」


 金髪の男性が立っていた。

 先程と同じように、うろうろしている。


(……意味が分からない)


 わざわざ一人で戻って悲鳴をあげた?

 それとも似ているだけで全く別の人?


「ひょっとして、NPCなんじゃないかしら」


 神楽さんが言った。

 僕はパチパチと瞬きした後で問いかける。

 

「NPCとか出るの?」

「めっちゃ出るわよ」

「……なるほど」


 言われてみれば、そんな感じがする。

 まるでプレイヤーに話しかけられるのを待っているかのように、見えなくもない。


「作戦を決めた」


 僕は金髪の男性を見ながら言う。


「まずは僕が一人で行く。安全そうだったら、左手の親指を立てて合図する」

「ダメよ。あれがイベントのフラグなら、二人一緒じゃないと不都合があるかも」

「……分かった。そうしよう」


 深呼吸ひとつ。

 僕は男性に向かって声をかけた。


「Hey, What happened?」

「あ、あの! 聞いてください! 今ここを通ったら、この女性が……!」


 日本語かよ。

 僕は心の中で溜息を吐きながら彼に近寄る。


「えっと、えっと……そうだ、警察! 警察に行かないと!」


 かなり動揺している様子だ。

 これがNPC……謎の再登場を見なければ、信じられなかったかもしれない。


「あのっ、一緒に来てくれませんか!?」

「……なぜ?」


 神楽さんが返事をした。


「その、私だけでは、ど、ど、どのように説明したものか……!」


 とても説得力がある。

 彼には状況を説明する能力が無さそうだ。


「あのっ、どうでしょうか……?」


 見える。選択肢が見える。

 行く。行かない。二択だ。


 僕は神楽さんを見た。

 直ぐに目が合う。二人揃って頷いた。


「分かりました。案内してください」

「ありがとうございます! こっちです!」


 神楽さんが「はい」と答えると、彼は急に走り始めた。


「行きましょう」


 僕は頷き、彼女と一緒に背中を追いかける。

 どうにも緊張感が薄いのは、どこかゲームっぽいイベントだからだろうか?


(……集中しよう)


 このゲームにおいて油断は死に直結する。

 アッシュさんみたいに、突然現れたボスに殺されることもある理不尽ゲーなのだ。


 しかも、このゲームにはセーブもロードも存在しない。古い発言を思い出すためにバックログを見ることもできない。


 だから僕は全てを記憶することにした。

 そして必ず最適解を導き出すと魂に誓う。


 それが一番、主人公っぽいからだ。

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