駆け抜けるまで

黒井羊太

駆け抜けるまで。

 ヨーイドンの合図とともに、僕らは一斉にスタートする。生まれた姿は誰もが同じ。頭でっかちで、体は貧相。赤い頭に色白い体はアンバランスで奇妙にも見える。そんな僕らは、決められた道を走らされる。それが役目だから。

 舗装されたはずの道は、しかし嫌がらせのようにざらざらとしていて走りにくい。そんな茶色くて果てしない道を、僕らは嫌だともいえず駆けて抜けていく。

 摩擦。激しく擦れて熱が生まれる。それが限界値を超えると、火を上げる。僕の頭は火だるまに。だけどもそれが正解だ。

 火はやがて頭から体へ、ゆっくりと移行してくる。

 熱い。熱い! しかし叫ぶことも抗う事もできず、僕はただひたすら耐え忍ぶのだ。

 火はやがて僕の頭の先から足の先までを駆け抜けて、そして燃やすものが尽きて消えてなくなった。

 僕の体は真っ黒け。もう一度燃える事も出来ない、何の役にも立ちそうもない。

 遠くで、新しい奴が箱から取り出され、そしてその人生を駆け抜けていく。僕と同じ未来がそいつには待っている。

 スタートからった後までの、ほんの僅かな命。それが僕たちマッチの運命。

 

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駆け抜けるまで 黒井羊太 @kurohitsuji

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