きみと世界を守る旅
羽間慧
きみと世界を守る旅
世界が生まれたとき、神は人間の王と魔族の王を創られた。日の出ている時間は人間に与え、月や星の輝く時間を魔族に与えられた。両者の住みやすいよう世界を二つに分けた神のご配慮に、我らは感謝するべきでありゅ。
「駄目だぁ。さっきまで読めていたのに。一節の途中で噛んじゃったよー!」
暗唱する少女の頭に、固いものが当たった。座り込む場所に選んだ木は、実をつけるには早すぎる。少女が頭を押さえて振り返ると、大剣を担いだ少年が立っていた。
「アルパ、今日も練習ごくろーさん」
「レディーの頭を叩かないの、大剣使いレイ様」
「悪い。これでも手加減したんだぜ。そんなことより、早く聖女に昇格できないのか? 俺はいつ旅に出てもいい! だけど、アルパと一緒に旅をする約束があるから、我慢しているんだぞ。俺の剣も、我慢の限界だと言っている!」
レイは大剣を抜き、高々と掲げた。
ソウシ村には十六歳の誕生日に、職業に応じた武器が与えられる。迷宮で見つけた宝箱を持ち帰ることで、一人前の大人として認められるのだ。
見習いのままのアルパは、専門職の武器が持てない。十八になっても村に留まるアルパとレイは、ことあるごとに村民から出立を急かされていた。特にレイの持つ大剣は、弱虫を隠すための武器だと子ども達に笑われていた。
「今まで待たせてごめん。これから試練を受けて来るね。二年も辛抱強く待ってくれたレイは、自慢の友達だよ」
「絶対受かれよ、アルパ」
受からない訳がないよ。聖典の知識、闇魔法に関する対策、治癒魔法の詠唱も、二年前から完璧なんだよ。
人間を滅ぼそうとする魔王の企みを、アルパは予知夢で見ていた。王都で魔王軍と戦ったレイが戦死することも。
わざと試練に落ちていたのは、夜の迷宮探索でレベル上げをしていたからだ。魔物が有利な時間帯に挑み、聖女としての力を極めてきた。すべては、初恋を終わらせないために。
「時は満ちたよ、レイ。今日こそ、きみと世界を守る旅を始めよう!」
最強聖女に守られる大剣使いの物語の、はじまりはじまり。
きみと世界を守る旅 羽間慧 @hazamakei
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