スタートダッシュに出遅れる~♪
夢神 蒼茫
スタートダッシュに出遅れる~♪
これから始まる大レース~♪
ひしめきあっていななくは~♪
ふと耳にしたラジオから、なんとも懐かしい曲が聞こえてきた。
よくよく考えてみれば、すでに50年以上は昔の曲だ。
自分の生まれる前の曲なのに、なんで知っているのだと言う話になるが、自分の世代だと、『みどりの●キバオー』のOP曲が馴染み深い。
オリジナルとは若干歌詞は異なるが、名前の差し替え程度でほぼ同じである。
ガチな競馬実況のナレを差し込んだりしているのが特徴だ。
今でこそ鳥取の田舎に居を構えているが、ちょいと前まで大阪、京都に住んでいた。
嗚呼、懐かしき仁川の阪神競馬場よ、淀の京都競馬場よ。
今ではたまに
なにしろ、今では競馬とは違う別の“博打”にのめり込んでいる。
そう、“農業”と言う名の博打だ。
農業は広義においては、博打に分類されていると自分は考えている。
畑を耕し、種を買い、苗を育てて、収穫する。
種や肥料を経費とし、収穫物の販売額との差額が懐に入る計算だ。
白ねぎを育てているが、作業自体はルーチンが組まれている。
When(いつ)
Where(どこで)
Who(誰が)
What(何を)
Why(なぜ)
すべては予定調和だ。
先人達が築き上げた農作業の手順が存在し、それに沿っていれば収穫はできる。
だが、収穫量に差が出るのが、個々人の技量、そして、“運”だ。
When(播種や植え付けの時期は?)
Where(どの畑を使うか?)
Who(作業に必要な人数は?)
What(優先すべき作業は何か?)
Why(台風さん、勘弁してください)
どれが最適解なのかは分からない。
なにしろ、一つとして同じ天候の年などないからだ。
人事は尽くす。やれるだけの事はやるさ。
しかし、天命は非情である。
台風一発ですべてが吹っ飛ぶのが農業である。
最近では線状降水帯での強烈かつ長い雨、要は水害だ。
今まで感じた事のない猛烈な酷暑の夏、これもきつい。
過酷な環境下であろうとも、作業は一日とて休まない。
自分も生きているが、白ねぎもまた生きている。
生きているならば、面倒を見なければへたれてしまうのは道理である。
まあ、何のことは無い。世話をきっちりして、大きく太くなってもらった方がいい値段で売れるからだ。
現金な話であるが、趣味ではなく、商売でやっているのだ。
出来るだけ高く売る、当然の帰結であろう。
思えば脱サラして、都会を離れて田舎に移住し、農家に転身して早六年が丸々経過してしまった。
農家になるためのスタート研修に1年と4ヶ月、ここで挫折した同期もいた。
そして、丸6年という時間の流れの中、離農してしまった者もいた。
だが、自分は続けている。
しかも、まず間違いなく成功している部類に入る。
白ねぎの収穫高は安定し、ン千万稼げるようになった。
元・調理師という技術を活かし、白ねぎのレシピ開発を行って、そちらの方でも注目を集め始めた。
テレビ、新聞、雑誌、ここ最近、メディア露出が増えたのも、そうした地道な活動が実を結んできた結果であろう。
なお、趣味の物書きは鳴かず飛ばずを繰り返しているが、本業と副業が好調なので、特に気にはすまい。
そう、全ては“脱サラ”という博打に打って出て、勝ちを拾った事にある。
その博打には勝ったが、次もまた博打だ。
そう、農業は博打。最適解がない以上、経験や知識に基づく賭けに出なければならない場面がある。
実際、肥料のやり方や、植え付けの際のオリジナルチャートを発動し、上手くいった時と、逆にしくじったときもある。
同じようにやっていても、結果は異なる。
だからこその博打だ。
考えに考え抜いた作業工程も、天候一つで吹っ飛んでしまう。
そこは運であり、それを掴むかどうかの博打だ。
スタートダッシュで出遅れる~♪
どこまでいっても はなされる~♪
ああ、全くもってその通りだ。
スタートダッシュ、すなわち初動や出だしと言うのは肝心だ。
学生時代は真面目な生徒とは言えず、のほほんとサボっていたものだ。
料理が好きだったのでなんとなしにそちらの道へ進んだが、どうにも上手くいかなかった。
今少しかつての自分に真面目さや根気があれば、あるいはもっといい場所に就職していたかもなとは思う。
社会人スタートにイマイチ乗れなかった者の末路だ。
だが、巻き返しはできた。
競馬で言うところの
三十半ばで脱サラして、今こうしている自分がいるのだ。
あのままくすぶっていたらと思うと、勝負に打って出てよかったと感じている。
ところが奇跡か 神がかり~♪
居並ぶ名馬を ごぼう抜き~♪
まあ、そこまで成功したかどうかは分からないが、まず満足のいく結果を今のところ出せている。
あと、抜いているのはごぼうじゃなくて、白ねぎな。
結局のところ、人生やはりどこかで勝負に出なくては絶対に勝ちは拾えないと言う事だ。
自分は人間にはおおよそ3種類に分けられると思っている。
勝者、敗者、逃亡者だ。
かつての自分は敗者だった。
スタートダッシュに出遅れて、そのまま離されていった口だ。
だが、脱サラという勝負に出て、ようやく勝者と呼べる領域に踏み込めたと今では思っている。
勝負に負けて敗者となるのは構わないが、何もせずにくすぶって逃亡者になるのだけは御免こうむる。
それがかつての自分が心機一転、農業という新たな世界に飛び込んだ一歩をスタートさせたときの気持ちだ。
そう、スタートダッシュにしくじったとしても、巻き返しはできるのだ。
だが、●-ルドシップ、てめぇはダメだ。
120億を紙くずに変えた罪は重い。
あの時の阪神競馬場は阿鼻叫喚だったんだぞ~(涙)
とまあ、無為にただ人生を流すように生きてきたが、今では天職を見つけて、楽しい日々を送れている。
要は、人間に必要なのは、どこまでもやりきろうと言うやる気と、最初の一歩を踏み出せる勇気があればいい。
あと、ちょっとばかしの資金もね。
そうすれば、もう一度スタートできるのだ。
30代。40代、50代、まだまだやれる!
60の手習いだっていいぞ!
人生まだまだこれからだ!
追いつけ追いこせ引っこぬけ~♪
さて、調子のいい曲が頭に入って、テンションは上がった。
ラジオにリクエストしてくれたリスナーの方には感謝感謝。
さあ、始めようか。
年も明けて、今日が初出荷。
白ねぎ農家7年目、そのスタートだ!
プシュ~♪(
スタートダッシュに出遅れる~♪ 夢神 蒼茫 @neginegigunsou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます