創作人間である今の私が始まった日

香久乃このみ

思い出つらつら

「昨年小説を書き始め、今年、初挑戦のコンテストで賞をいただきました! ありがとうございます!」

 そんな文言を見るたびに「すごいなー」とただただ思う。


 私は活動期間だけはやたらと長い、創作人間だ。

 小説だけでなく、漫画、ゲーム、動画シナリオ、舞台シナリオなど、様々なものに手を出してきた。

 きっと、物語を作ることが好きなのだ。


 絵は物心つく頃にはすでに書いていた。

 コマ割りの漫画を描いたのが小学一年生。授業中にも書いてて怒られた記憶がある。

 隠さないオタクだったため、ノートに描いた漫画は求められれば女子には見せていた。クラスの娯楽係の様なポジションを得ていたため、オタクだからと言う理由で、嫌な思いをさせられたことはない。

 ただ、漫画を見たがった男子には、ちょくちょくちょっかいをかけられた。

 すまん、さすがに自分の恋愛妄想を絵にしたものを男子に見せるのは、10歳には厳しかったんだ。


 中学に入ると小説も書き始めた。

 メインは漫画だったが、小説なら授業中に書いてもバレにくいことに気付いたのだ。

 漫画同様、クラスの女子に求められれば見せていたが、ある日なぜか休み時間に急に教室に入ってきた担任にノートを没収されてしまった。

「授業に関係ないものを持ってきている」

 というのが理由だった。

 職員室に呼ばれ、「ご機嫌やのぅ、小説家先生」と散々煽られた挙句ノートは返してもらえず、「これは俺が気の向いた時に、みんなの前で読み上げてやる」とまで言われた。

 ぶっちゃけ、人生の中で一番嫌いな先生だった。

 その先生は、なぜかその5年後くらいに30代で急死した。

 言っておくが、決して私は呪っていない。


 高校に入ってすぐに、小●館の児童向け漫画部門に漫画を送った。

 最終審査まで残ったが受賞はならずだった。

 けれど15歳の子が書いたというのが大きかったのか、「担当です」と名乗る方から突然電話がかかってきた。

 残念ながら我が家はとても厳しく、漫画を描くなど許してもらえない環境だった。

 この電話によりコソコソと漫画を描いていたことが親にバレてしまい、以降、監視の目が厳しくなる。

 学校に行っている間に部屋に入られ、机の引き出しを全部引き抜いてひっくり返され、漫画関連の道具や原稿などは見つかり次第廃棄された。

 原稿に至っては「下手くそ」「才能なし」「ばか」などと赤ペンでぐりぐりと書かれ、破ったものをこれ見よがしに机に貼り付けられる始末。

 私にとって最大のアンチが親だったのかもしれない。

 それでも見事に隠し抜き、完成させた原稿を一年に一度は編集部へ送った。

 原稿の隠し場所になってくれた友人、ありがとう。

 ちなみに担当さんからは「1ヶ月に一度は送ってね」と言われていたのだが、親の執拗な妨害のためそれは叶わず、気が付いたらフェードアウトされていた。


 大学に入ってからはいくらかの自由を得られたため、漫画の投稿を繰り返し、何度か小さな賞をいただいた。

「奨励賞」「努力賞」「選外佳作」だったか。

 ただ、デビューには至らなかった。

 絵が下手過ぎたのだ。10点満点中2点だった。


 大学を出てまもなく結婚。

 ここで旦那から「お前、漫画よりゲーム作る方が向いてるんちゃう?」との謎アドバイスをもらう。

 先述の通り実家が厳しかったため、ゲームには触ったことすらもなかったが、旦那のコレクションをいくつかプレイした後に「RPGツクール」で制作を始める。

 これをきっかけとして、以降10年同人ゲームを作り続けることとなる。

 雑誌に作品が掲載されたことも数回あった。


 息子が小学生の頃、ふと「働きたいけど、子どもの不調で急に呼び出されることあるから、家で働きたいな」と考える。

 お仕事マッチングサイトに

「漫画で受賞したことあります。同人ゲーム10作以上リリースしました」

 と書いて登録したら,その日のうちにソーシャルゲームを制作している一社から連絡をいただき、そこから8年ほどメインシナリオライターとしてお仕事をさせてもらえるようになった。

 これは今でもありえないほどのラッキーだなぁ、と思っている。

 乙女ゲーが量産されていた時期だったため、上手く波に乗れたのかもしれない。


 そして今に至る。

 既に息子は成人した。

 創作歴は最初のコマ割り漫画から数えると、40年以上となる。

 ドカーンと大当たりすることはないが、なんだかんだで楽しく続けられている。

 そんな創作人生だ。

 ここまで続けてほぼ報われてないのに、全く飽きることがない。

 何か思いつくたび、ワクワクして書き始めてしまう。

 これは一種の才能と思っていいのだろうか。

 いや、病気かもしれない。


 私はきっと、物語を作ることが好きなのだ。

 そして誰はばかることなく作品を書ける今が幸せなのだ。

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