冒険者のスタートセット
あげあげぱん
第1話 冒険者のスタートセット
僕はパルスという国の、首都から北へ半日程行ったところにある村に住んでいる。いつまでも、ただの村人で終わるつもりはない。そのためにお金をコツコツ貯め、冒険者へとジョブチェンジするべく、今日は村の雑貨屋にやってきた。
「ケイトさん。冒険者を始めるために必要な物を売ってくれ。金ならあるんだ」
店に入ると同時にそう言った僕に、店主のケイトさんは目を丸くしていた。
「トム君。冒険者になるって、ご両親にはちゃんと話したの?」
「両親とは喧嘩してきた。家を飛び出したんだよ。僕は冒険者になるんだ」
「そこまで言うなら……冒険者になるために必要な物を用意してみようかしら。暇してたところだし、商品の整理も兼ねてね」
「余計な言葉が多いよ」
「ごめんなさいねえ。お姉さん言葉が多いから」
ケイトさんはいつまでも僕を子ども扱いする。ちょっと嫌な思いになりながらも、彼女が商品を並べるのを待っていた。
彼女は店の床に冒険者として必要な道具を一式並べた。
「冒険をするために最低限必要な物はざっと、こんなものかしら」
背負い鞄、水筒、テント、寝具、雨具、杖、調理道具、食料、ショートソード、ナイフ、革鎧、小盾、ランタン。
ケイトさんが並べたものは思っていたより多い。冒険者ってこんなに沢山の物を持ち歩いてるの?
「け、結構重そうだね」
「トム君には重すぎるかな?」
「そんなことないよ」
「じゃあ装備してみる?」
「良いの!?」
うっかり嬉しい気持ちがそのまま声に出てしまった。少し恥ずかしく思いながらケイトさんの顔を見上げた。
「良いのよ。でも、きっとトム君には重いと思うわ」
「僕だって男だよ。これくらいの荷物なんともないさ」
「じゃあ、装備させてあげるわね」
ケイトさんは僕が冒険者の装備を身に着けるのを手伝ってくれた。その結果、僕は重い荷物のせいで、なんとか動くのがやっとという情けない状態になっていた。これじゃ魔獣と戦ったりなんて、とてもできない。僕は男なのに……悔しくて涙が出てきた。
涙を流す僕にケイトさんが視線を合わせてくれた。彼女は僕を諭すように言う。
「トム君。あなたの気持ちは分かるのよ。でも、あなたはまだ六歳の子どもなのだから、あなたの貯めてるお小遣いじゃ、とても装備を揃えるには足りないし、あなたが冒険者の装備をしても使いこなすことはできないわ。まだ、早すぎるの」
「……うん」
悔しがる僕にケイトさんは優しく「あなたの両親へ一緒に謝りに行きましょう」と提案してくれた。
「僕は冒険者になれないのかな?」
尋ねると彼女は微笑む。
「まだ、時が早すぎただけよ。いつか、トム君が冒険を始めるのにふさわしい歳になった時には、またうちの商品を買いにおいで」
そして彼女はウインクをして言った。
「今日出した冒険者のスタートセットは、あなたのためにとっておくわ」
冒険者のスタートセット あげあげぱん @ageage2023
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