大晦日の大掃除

まする555号

大晦日の大掃除

 明日は彼女が初めて家にやってくる。


 中学校の部活で知り合った彼女に、僕はずっと片思いを続けていた。

 頭の良い彼女と同じ高校に行きたくて猛烈に勉強して合格を勝ち取った。

 高校でも同じ部活に所属したけれど勇気が無くて告白出来なかった。

 夏休みの縁日や花火大会も部活仲間として出かけ、友達の一人でしか無かった。

 誕生日プレゼントも教室で手渡すだけで特別な関係では無かった。

 けれど、クリスマスイブの日にデートに誘ったら応じて貰え、当日にその場の勢いで駅前の大きなクリスマスツリーの前で告白したら、「遅いよ!」と怒られたあと応じてもらえた。


 初詣の帰りに彼女が家に来ることは、両親にはあらかじめ言っていた。

 両親には、寝正月気味だった去年のだらしない恰好はしないでとお願いした。

 お袋は、僕が本気だと思ったのか、スーパーで予約して買ったプラスチック容器入りだったものを、追加で買った蒲鉾や伊達巻や栗きんとんや煮豆をお重に綺麗に詰め直してくれた。

 親父は夜中にコンビニに行ったあと、何かを冷蔵庫に入れていた。彼女へ出すためのジュースかケーキでも買って来たのだと思う。


 僕は部屋の掃除を徹底的に行った。

 僕は自室のベッドの下の埃どころか窓のレールの下まで大掃除でもそこまでしないよと言われるぐらいピカピカにした。


 パソコンの中も念入りに掃除をした。

 お宝画像関係は何かのシステムプログラムのフォルダっぽい名前の場所を作って放り込みロックもかけた。

 受験の間は封印していた年齢的にやっちゃいけないよ系のゲームもセーブデータだけ残してアンインストールして証拠隠滅した。

 ネットの検索履歴も消去して、化学式だとか三次関数だとかハドリアヌスとか源氏物語とか教科書に書かれていた適当な単語の他、部活のための単語を調べたようなものを履歴として残した。

 通販サイトの取引履歴は消しようが無いけれどログインさえされなければ分からない筈だ。

 ログイン名やパスワードは現在脳内しかないので完璧だ。

 動画サイトは安眠音とか野球の結果ダイジェストとかを見ている様に工作済。

 パソコンは部活と野球と勉強と通常のオンラインゲームだけをやっているように見えている筈だ。


 その他怪しいグッズは施錠の出来る引き出しの奥に封印済だ。

 グラビアアイドル写真集はともかく、一昨日親父に「念の為に持っていろ」と言って手渡された、世界最薄0.01mmと書かれたドン引きされかねない箱があったからだ。


 消臭剤もドラッグストアに買いに行き部屋中に念入りにかけまくった。

 ベッドの布団もベランダに干して何度もパンパンと叩いた上に消臭剤を何度かかけた。そして昨日はベッドで寝ず床に来客用の布団を敷いて包まり、ベッドに高校生男子の体臭を移さないようにした。

 もしもの時に「臭っ!」と思われない準備は万端だ。


 掃除をやり切り床に寝た時に、ひんやりとした床を這う隙間風を顔に感じ、大晦日の夜に何してるんだろうとふと思ったけれど、彼女とスタートを切ったばかりの関係をゴールへ導くために全力を尽くしているんだ。


 明日の彼女の格好に思いを馳せ、両親が見ている紅白の結果を知らせる音と、僅かに外から聞こえる除夜の鐘の音を聞きながら、僕は眠りについた。

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大晦日の大掃除 まする555号 @masuru555

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