第62話 ギュッてして欲しい シズ視点

「シズぅ……この映画一緒に見てよぉ……」


 アオイが目をウルウルと潤ませながらテレビを指差した。画面にはサブスク動画配信サービスの画面。その内の一つ。海外の有名俳優と動物の着ぐるみが映ったアイコンが表示されていた。


「え、なんでそんなに泣きそうなの?」


「だってぇ……見たいけど怖そうなんだもん……」


「怖そうって、これどう見てもブラックコメディか何かだと思うけど」


「分かってるけど、絶対怖いって思っちゃう!」


「見なきゃいいじゃん」


「でも見たいの! 気になるの!」


 袖を掴んで来るアオイ。どうやら見たいという意思は固いみたいだ。


 まぁ、子供の頃って大したことないホラー映画でも怖かったしな……幼くなってるアオイは感覚があの頃に戻ってるのかも。


「いいよ」


「ありがと〜♡」




◇◇◇



 映画が始まる。アオイは僕の腕に隠れながらチラチラと画面を覗いていた。


 主人公の男がある村を訪れ、村人に騙されて一晩廃棄された遊園地で掃除をすることに。しかしそこには勝手に動き回り人を殺し続ける動物型モンスター達が……という設定。


 だけど正直……。


 ストーリーとかガバガバじゃないか?


「ひぃっ!? なんかモンスターが出た!」


「動物ロボットだね。というか可愛い目? のデザインな気がする」


「つぶらな瞳に凶暴そうな歯が付いてるって怖いよ……!」


 アオイが膝の上に乗って来る。


「ギュッてしてぇ……」


「そこまで!? というかもう主人公が反撃に転じてるよ!? もうここから怖く無いでしょ!?」


「え? う……」


 突然、アオイの目が泳ぎ出す。


「こ、怖いもん。怖いからギュッてして欲しいし……」


 そう言いながらも画面をチラリと見るアオイ。画面では覚醒した主人公が人喰い化け物ロボット相手に無双していた。


「ふふっ」


「今笑ってたよね?」


「え? そ、そんなこと……ふふっ無いよ?」


 もう明らかに笑うのを我慢している顔だ……でも多分自分の要求を通したいのと、初めに怖がっていたのが恥ずかしくなったことで、なんとも言えない表情になっていしまっている。


「うぅ〜ふふっ。こ、怖いんだよぉ〜! ギュッてしてぇ!」


 顔を真っ赤にして両手を伸ばしてせがんでくるアオイ。なんというか、そういうことにしておこう。これ以上突っ込むのはアオイの為にならないし……。



 気付かないフリをしてアオイを抱きしめる。



「は〜♡ 怖いよぉ〜♡」



 アオイは映画が終わるまでずっと上機嫌だった。



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幼女になったオレ。うっかり親友のメインヒロインを目指してしまう♡♡♡♡♡ 三丈 夕六 @YUMITAKE

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