第61話 肩車する話 シズ視点

 次の機関誌の準備をするということで、僕とアオイは部長に呼び出されていた。


「お、蒼ちゃん。この前あげたスカート履いてるじゃん♪」


「か、可愛かったから……ちょっと着てみようかなって……」


 モジモジするアオイを見て、小野寺部長はニカっと笑顔になる。


 ……確かに今日のアオイは一段と乙女っぽいカッコしてるかも。紺色のヒラヒラしたスカートにニーソックス。上も白いシャツでなんか良い所の娘みたいだ。


「いいよいいよ〜♪ その乙女な感じ最高だよ〜!」


「もう! 恥ずかしいからやめてって!」


 じゃれ合う2人を止めて作業を始めた。




◇◇◇ 


 部室で作業を始めて2時間ほど。部室の電気が急にチカチカと点滅する。


「ねぇ静希くん。私今から学生課に用事あるからさ、あの蛍光灯取り替えといてくれない?」


「いいですよ」


「じゃあよろしくね〜」


 鞄を背負った部長が部室を出て行く。バタリと扉が閉まると、部室の中が静まり返った。


 用具入れに入っていた交換用の蛍光灯を取り出して、テーブルの上に登る。


「……あれ? 微妙に届かないな」


 ここの天井意外に高いんだな。いけると思ったのに。


「オレがやるよ」


「アオイじゃ届かないだろ?」


「肩車して貰ったらイケるって」


 肩車?


 テーブル壊れたりしないよな……。


 でも、他に方法も無いのでアオイの言う通りにすることにした。


 テーブルの上にしゃがみ、アオイが僕の肩にまたがる。後頭部にふにゅっとした感触が伝わった。


 肩車しながら恐る恐る立ち上がる。なんとかテーブルは大丈夫みたいだ。


 流石に軽いけど、落ちそうで怖いな。


 アオイが落ちないように脚を押さえる。



「う……っ!」



 う?



「え? これ……っ!?」


 ん? なんか変な声が……それになんだかアオイがモゾモゾ動いてる気が……。


「大丈夫?」


「だ、大丈夫」


 見上げると、アオイの顔が少し赤くなっていた。


 なんだ? 体勢が苦しいのかな?


 アオイがどういう体勢なのか確かめようと上を見る。しかし、うまく彼女の姿を捉えらない。


「ひっ……!? ちょ、ちょっとシズ動かないで……ぇっ!?」


「え? なんで?」


「な、なんでも…っ!?」


「もしかして熱でもあるのか?」



「あ、ひぅ……しないで……っ!?」



 しないでってなんだ?


 心配だな。とりあえず一旦下ろした方がいいかな。


 アオイを降そうとしゃがみ込む。肩車の体勢のまま、アオイの体重が全部僕の首にかかる形になってしまう。



 う……くっ……これはキツイ……。



「あ、あ、あ、ちょっと!? 体勢変えない……んぅ……っ!?」


「あ、暴れないでくれって!」


「だ、だって!? んんっ!?」


「え? ちょっと苦しいから降りてくれよ」


「ん、んっ、ちがっ!? オレもワザとじゃ……」


 首の上でアオイがモゾモゾ動く。それがすごく苦しくて、思わず立ち上がってしまう。突然僕が体勢を変えたのでアオイが後ろへ倒れそうになる。


 マズイ!?


 アオイの両脚をガシリと掴む。


 その瞬間。


 首筋に何かゴリッとした感触が伝わった。



「ん、んんんん〜〜〜〜〜っ♡!!?!?」



 突然痙攣けいれんするアオイ。



「だ、大丈夫か!?」



「ふう……ぅうっ!? う、動か、ない……んっでええ……っ!」



 ビクビクと痙攣したまま、アオイは必死に蛍光灯を落とさないようにしていた。




◇◇◇


「も〜! 聞いてよ! 学生課の対応が悪くてさ〜! 休みのせいでいつもの人がいなくて……てどうしたの蒼ちゃん?」


「さっきからこの様子なんですよねぇ……今日の作業はもう切り上げましょうよ」


「ん〜そうだねぇ。風邪かなぁ?」


「分かりません」


「んっ! ……んんっ!! なんでえぇぇ……」



 アオイはしばらくテーブルに突っ伏したまま何も話さなかった。

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