一寸先の聖女
珠邑ミト
一寸先の聖女
そう、第一印象は、「ああ、なんてキレイな子なんだ」だったんですよ。
プラチナブロンドの巻き毛に、同じ色の
そう、彼女はね、異世界から召喚された、聖女様だったんです。
くりかえしますが、わたしは学がありません。掃除しか能のない、しがない下男なのです。なので、彼女が召喚された時にも、まるで存在しないもののように、儀式の間のすみっこで、ほそく小さくなりながら、床に染みついた果汁のこぼれ落ちたのを、キレイにしていたんですね。
彼女は、泣いていました。
きっと、なんの心づもりもなく、急にこの世界に呼び出されてしまったのでしょう。
わたし、すっかりかわいそうになってしまいましてね。
だって、かわいそうじゃないですか。
いきなり日常から切り離されて、見も知らぬ場所に連れてこられて、そうして、えらい人たちのいうことを聞かされたり、好きになれるかもわからない王子様(わたしの国の王子様は、まるでガマガエルに似ていて、その上、
だからね。
助けてあげたんです。
ほら、わたし掃除夫だから。
部屋の出入りは、どこの部屋でも、自由にできるんですよ。
彼女がつかまっている部屋にひっそり忍び込むと、寝台の上でぷりぷりりと、やっぱりライチのように震えていました。かわいそうに。だから、わたし、「だいじょうぶ、たすけてあげるからね」と、おおきく口をあけて、ぱくんと、お腹のなかにかくしたんです。そして、にょろり、にょろりと、ね。
部屋から、ぶじに、脱出しました。
巣穴にもどったら、お腹から出してあげますからね。
ああ、それまでに、溶けてしまわないと良いなぁ。
ほら、わたし学がないもので、どれくらいの時間なら、彼女のライチみたいな肌が溶けずにすむものだか、ちょっとわからなくて、ええ。
これからは、いっとう大事にしてあげますからね。
しあわせな暮らしを、ふたりで、はじめましょう。
ふふふふふ。
(了)
一寸先の聖女 珠邑ミト @mitotamamura
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