その時、僕らは地球にいなかった。

まちゅ~@英雄属性

その時、僕らは地球にいなかった。

 大晦日、年越しのカウントダウンが始まる。


 今年も後10分程。


「ウェーイみんな、誰でも良いから隣どおしで手をつないで輪になれ!!」年越しカウントダウンパーティーが終わった居酒屋の前で僕ら大学のサークル仲間達が駄弁っていると、幹事の浦島がへべれけに酔っぱらったままダミ声をあげる。


 幹事が一番酔っぱらってるのってなんだよ?苦笑していると隣の黒髪長髪美女の桃田さんが「浦島君、幹事だったよね?」怒ると言うより、呆れている感じで笑いながら話しかけて来た。


「まぁあいつは、自分が飲みたいだけで、このカウントダウン年越しパーティーを開催してたからな」苦笑しながら、両脇を野郎共に抱えられて、連行されていく罪人みたいになっている悪友を見る。


「だから代わりに乙木おとぎ君が幹事みたいな事してるんだ?」クスクス笑う桃田さんを見て僕は肩をすくめて苦笑する。切れ長で大きくて綺麗な二重、良く見るとまつ毛ながっ!!白い肌もお酒で赤く染めている。凄く色っぽい!!


「でも、お陰で私も年越しを寂しく一人で過ごさずにすみました」桃田さんがありがとうと言って目を細めて笑い掛けて来る。


「こうなるの目に見えてたからお酒も控えといたんだ。」

 桃田さんが熱い溜め息をつくのを見て少しどぎまぎしてしまう。


 桃田さんの今日の服装はクリーム色のニットのワンピースで胸元が大きく開いてデコルテが見えてて首元がセクシー。


 彼女とは、大学二年生になったころから仲が良くて、もう一人の女の子と三人で良く飲みに行ったり遊びに行ったりしている。もう一人の女の子も無茶苦茶可愛く、桃田さんと二人でうちのサークルのツートップで、時々何で俺なんかと遊びに行ってくれるのか不思議になる。


 取り敢えず、俺の左手は桃田さんで決まりそうだな。他の男達が桃田さんの隣を取ろうとして場所の争奪戦をしている。


「でもさ、そんなに暇なら俺とか呼んでくれれば良かったのに」冗談めかして笑いながら言うと、桃田さんが、さも名案と言うように、


「それ良いわね?来年、美味しい年越しそば作ってあげる!!」両手を胸の前で合わせて大喜びしている。

 その時、僕の背中にドンと衝撃を受けて、ビックリする。

「それなら、こんな合コンめいたパーティーに来なくて良いもんねー!!」僕の背中に誰かが飛び乗って来て、首に両手を回しておんぷ状態になる。ちょっと苦しくてグェッとカエルの様な声を出してしまった。


 こんな事をするのが誰かは、後ろを向いて顔を見なくても分かっていたけど、子供っぽい甲高い声と背中に押し当てられた大きなビックマムに少し戸惑いながら、

「金田さーん、急にこんな事されるとビックリするよ!!」


 茶髪ショートヘアでくりくりっとした大きな目をした愛玩動物の様な少女が、デヘヘと悪ぶれもせずに俺の背中に飛び乗って外見に似合わない巨大な物を押し付けている。


「何さ華ちゃん、ノリ悪いなぁ」後ろから「ブーッ」と言う不貞腐れた声が聞こえる。


 この状態じゃ振り返れないし、勘弁して欲しいんだけど……何故か、桃田さんが機嫌の悪そうな顔してるし……まぁ話の腰折られたら誰でも気分悪いか?


「アハハ、金田さんの悪ふざけも困ったもんだねー、ごめんね桃田さんの話の腰を折っちゃって」苦笑しながら桃田さんに話しかけると、


「別に良いけど……じゃあ来年は、乙木君の家でカウントダウン決定って事で!!」


「えっ?本気?」マジか?心臓の音ががバクバクしているのを感じる。


「君から言いだしたんだよ?乙木華士おとぎはなし君」悪戯っぽくトンと胸を叩く桃田さん。ヤバいな胸の音がどんどん激しくなっていく。


 何か話そうとした時、後ろから「それ、もちろん私も一緒だよね?桃ちゃん華ちゃん?」心なしか、首を締める強さが強くなった気がする。


「それは……」桃田さんが口ごもった時、


 タイミング良く浦島が酔っ払った声で、大声を出した。


「後、一分だぞー!!みんな手をつないだかー?つないだならカウントダウンゼロと同時に来年の抱負や絶対やる事をみんな叫んでジャンプなー!!」後、一分と言う短い時間と軽く酔った頭が深く考える事をさせない。


 ヤバいヤバい、何を言おう!?


 気がつくと僕の右手には桃田さん、左手には金田さんが手をつないでいる。他の人達は思い思いに大きく輪を作っているのに、何故か僕らだけは丸くならず、一本の線。何となく周りの仲間達の視線が痛い。


 何これ?何これ?色々考える暇もなくカウントダウンは続いていく。


 じゅう!!きゅう!!はち!!……何を言おう?何を言おう?左右を見るけど、二人とも真正面を向いて上の空の様だ。


 何となく居たたまれない気分になりつつ、無難な事でも言おうかとカウントダウンを叫ぶ。


 さん!!に!!いち!!そして今年が去年になった。


 ゼローー!!


 その瞬間皆がその場でジャンプする。俗に言うカウントダウンジャンプとか年越しジャンプとか言う、年を越した瞬間、地球にいませんでしたー!!って言うあれだ。


 皆で合わせてジャンプして、今年の抱負とかいうか、決意みたいな事を叫んだ。


 僕「今年こそ、彼女つくるぞー!!」


 桃田さん「乙木君に好きだって告白します!!」


 金田さん「華ちゃん、大好きー!!」


「ん、んっ!?」左右からの言葉に大慌てで、二人を見る。明らかにお酒のせいじゃなく真っ赤な顔をした二人を茫然としながら見る。


「マジか、桃田さん乙木の事を!?」「金田さん乙木君、狙いなんだー!?」「畜生ー!!二人とも、狙ってたのにー!!」

 周りの仲間達のざわつく声が聞こえた。


「彼女、欲しいんですよね?私、立候補します!!」桃田さんが僕の方じゃなく、金田さんの方を見て宣言した。


「私の方が、先に好きになったんだから!!私も立候補だよ!!」金田さんがやっぱり桃田さんの方を見て宣言する。


 慌てる僕を、尻目にいつの間にか近づいた浦島が僕の肩を組んで酒臭い息を吐きかけて来た。

「よぅ、モテモテ君羨ましい事だねぇ?でっ、どっちと付き合うのかな?」嫌らしい口調でニヤニヤ笑いかけて来る浦島を押し退けると、二人が僕の前に近寄って来て、

「ねぇ乙木君、私よね?」「華ちゃん私だよね?」桃田さんと金田さんが熱い瞳を僕に向けてくる。


「うぇ?急にどっちと言われても……」決められる訳無いだろ?

「私?」「私?」詰め寄られて焦る僕に横から浦島が「お前まさか二人とも大好き過ぎて選べないーとか言うんじゃ無いだろうな?」と、なんだよその二股野郎はって……それだ!!


「そうだよ、僕の中ではまだ二人とも大好き過ぎて選べないんだ。だからほら新年の誓いも彼女を作りたいって言っただろ?だって二人とも凄く魅力的なんだから!!」慌てふためきながら、必死に弁明する。

「そんな、魅力的だなんて……」桃田さんが頬を赤らめてモジモジし、「そっそうだよね、急に二人から告白されたって困るよね?」金田さんがエヘヘと笑って赤らんだ頬を人差し指でポリポリする。


「でも乙木君、他に好きな人がいるって訳じゃないのね?」桃田さんの強い眼差しに狼狽えながらもブンブンと首を縦に振る。


「そっか……それじゃ桃ちゃん、こっちカム」金田さんが桃田さんを呼んで二人でひそひそ話を始めた。一体、何だろう?


 しばらくして金田さんと桃田さんが僕の前に来る。


 ニヒヒと笑う金田さんと、微笑んでる桃田さん。


「華ちゃん、さっきは急にあんな事言ってゴメンね、私達も焦ってたから」金田さんがいつになく真剣な声で話してくる。


「いや、こっちこそ」取り敢えず返事してみた。


「私達二人の事を嫌いな訳じゃないのよね?」


「はい、勿論」どう考えても嫌いな訳が無い。


「どっちかと言えば、その……好きなのよね?」今度は、言葉を引き継いで桃田さんだ。


「はい、勿論」そりゃあ、二人とも無茶苦茶可愛いし。


「「じゃあ、私達二人と付き合って!!」」


「はい、勿論……って、ええっ!?」何故そうなる!?


「さっき桃ちゃんと話したんだ、私達って仲良いじゃん?」金田さんが桃田さんと目を合わせてニコッと笑った。


「まぁ確かに」


「だから、急に返事を決めて、どちらかと仲が悪くなるより私と金田さんと乙木君で仲良くなった方が良いかな?って」桃田さんが恥ずかしがりながら、うつ向いてモジモジしている。


 マジか?そんな夢展開あるのか?


「えっ?良いの?二人はそれで?」慌てふためいて、声が裏返ってしまった。


 二人は、揃えた様にコクりと頷いた。


 こうなったら、僕も腹をくくるしか無いか。


「えっと、その……よろしくお願いします」


 右手で頭を掻きながらおじきをする。それ位しか、その時の僕にはする事も出来なくて……。


 こうして期待と不安の新年がスタートした。僕は可愛い彼女が二人出来て、サークル内でのあだ名が二股野郎に確定した瞬間だった。


「よろしくね大好きだよ華ちゃん!!」


「よろしくお願いします乙木く……ううん華士君、私も大好きです!!」













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