儚く移ろいゆく時代。美しい、男の矜持の万華鏡

映画には古今東西、魅力的な所謂「親分」という立場の男達が時折登場します

例えば「壬生義士伝」や「永遠の0」でヒロイン親子をずっと陰で見守ってきた人物。

或いは「花の影」〜原題「風月」の上海マフィア、主人公を演じた張國榮をスクリーンの中で息子のように心より愛し、又、組織の掟で失態を演じたその命を、自ら命令を下し手折らねばならなかった人物。

そんなひっそりと哀愁漂う、存在感溢れる印象的な姿

〜「その後どうなったのかしら?」

つい思わず想像を掻き立てずにいられない、心にずっと居続ける愛すべき好人物のそこはかとない孤独の影が、この作品には確かに閉じ込められ刻まれています。

さてお話しは未亡人であるヒロインから見た義父の姿と、亡き夫の面影を色濃く残す美しい幼い一人娘と、家事を支える有能なお手伝いさんを交えた生活を、静謐な筆致で丁寧にしたためた物語です


義父の総ての期待をかけた待望の孫の性別が女児だと知った時の落胆

戦前は華族だったのだが、戦後はどうやらあまり経済的に恵まれておらず、それに伴う自身の誇りをかけたと言って良い、大きな諍い

移ろい続ける時代の影にいつのまにか置き去りにされる怒り

登場する護身用と受け継がれた伝家の宝刀とも言える、家宝の刀剣〜
これは神君徳川家康公より下賜されたと家伝で言い伝えられた伝来の品です

多くを作者様は語らずとも、それらちりばめられた手がかりより読み手の想像力は大いに刺激され、想像の翼がどこまでも羽ばたきます


当主は亡き息子の面差しをうつす、賢い孫娘をまごうことなく愛しています

新しい時代へ

新時代へ



自身の祖父へ

将来自身の足で自分の眼で、現地へ出掛けて復興のそれを見ると宣言する彼女の姿がひたすら鮮烈で麗しいです

確かに自分は新たなる世界を見る事は叶わないかも知れない

けれども確実に魂は次世代に受け継がれてゆくのだなぁと静かな感動が押し寄せます



読後感が明るく上品、静かに煌々と輝く珠玉の物語

初めまして。
おこがましくもはじめてレビューをさせていただきました。

総てがひたひたと選び抜かれた言葉達で表現され、美しき流れる文章に胸を突かれました

このような素晴らしい物語を読者の元に届けていただき、誠にありがとうございました。