隣の部屋でカップルがヤり始めから、俺は思いきり屁をこいた。

紅赤

隣の部屋でカップルがヤり始めから、俺は思いきり屁をこいた。

 壁の薄いアパートの一室。


 そこに、大学4年生の男が住んでいた。

 男の隣には、別の誰かが住んでいる。

 ただ、男は隣人に興味はなかったので、特に関わりはない。

 唯一知ってるのは、男性だということくらいだ。



 ある日の深夜。

 隣人は寝るのが早いのか、いつもなら生活音はなくなり、静寂に包まれる時間だ。

 しかし、その日は違った。


「電気、消した方がいい?」

「ううん。大丈夫だよ」

「そっか、それじゃあ……するね?」

「うん……あっ」


 隣の部屋から会話が聞こえてきた。

 そして間を空けず、今度は喘ぎ声が響き始める。

 さらに、喘ぎ声と同時に、肌と肌が強くぶつかり合うような音がする。

 まるで拍手でもしているかのように、一定のリズムで音が鳴っている。


「間違いない。隣の部屋で、セッ〇スしてる!」


 男はすぐに気が付いた。

 ちなみに男に性行為の経験はない。

 けれど、なんとなくわかった。


 いや、別にいいのだ。

 愛の行為。子孫繁栄の儀式。

 呼び方はどうであれ、別に悪いことじゃないのだから。

 それに、男はこういうのがどうでもいいと思う人間だ。

 元々、男は女性というものに興味が無かった。

 別に男のほうが好きとかそういうわけじゃない。

 ただ、この男は純粋に性欲というものが希薄なのだ。

 だから、どうでもいい――はずだった。


 ただ、その日だけは違った。

 実はこの男。卒業論文の提出が近かったのだ。

 時計の針は12時を過ぎている。

 タイムリミットは24時間を過ぎていた。

 だから男は徹夜で論文を書いていた。


 そのせいだろう。

 そのとき、男はイライラした。

 自分が時間に追われる中、呑気にセッ〇スしている隣人に。

 本来、ここまで論文の執筆を怠った男が全面的に悪いのだが、男はそんなことお構いなしだ。


 男は嫌がらせをしてやることにした。

 で、思いついた。


「そうだ。ここで思いっきり、屁をこいてやろう」


 壁が薄い部屋でオナラをすれば、相手は萎えるだろう。

 そう考えた。

 そこからの行動は早く、男は隣人のいる方角へ尻を向けると、腹に力を入れた。


「フンッ!」


 グッ!と力を入れた。

 大きく汚い音を出すつもりだった。


 ――ブリッ。


「あ」


 嫌な音が鳴った。

 そして、嫌な感触がした。


 男は無言になったまま、素早く移動。

 直行するのは――トイレである。


 恐る恐る、パンツを下ろして確認する。


 (どうか、どうか……!)


 祈りながらパンツを見る。

 だが、その祈りもむなしく、男のパンツは茶色の汚れが付いていた。

 どっからどうみても、


 ウンコだ。


 大きな屁を出すつもりが、少量のウンコを出してしまった。

 しかも、石みたいなウンコじゃない。

 ヨーグルト的な、半分液体半分固体のようなアレ。


「あんッ……気持ちいい!」


 相変わらず隣からは嬌声が響いていた。


 男はトイレットペーパーで軽くパンツの汚れを拭きとると、今度は風呂場へと直行。

 そして、風呂桶にお湯をため、そこへ洗濯用洗剤を投入した。


「あんッ……んん!」

「よし、だすぞ!」


 喘ぎ声と、なんかようわからん隣人の宣言を聞きながら、男はパンツを洗う。


 そして男は思うのだ。


「この時間に、卒論書けばよかったなぁ……」


 時間を無駄にし、パンツを汚し、他人のセッ〇ス音を聞く。


 男はウンコ付きパンツを洗いながら、独り泣いた。

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隣の部屋でカップルがヤり始めから、俺は思いきり屁をこいた。 紅赤 @aka_kurenai

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