俺の親孝行?~成人式を祝して~

ゆる弥

俺の親孝行?

「大輝ー! 起きないと遅刻するわよー!」


 ガバッとベッドから跳ね起きた。

 そうだ。今日は成人式だった。

 いつもは仕事に行っている時間なのに、実家に帰ってきていて気が抜けている。


 一階へと降りていくと母が朝ご飯を用意してくれていた。卵焼きとウインナー。これはうちの定番なのだ。


「ごめん! ありがと!」

「ここにスーツ出しといたわよ! ネクタイは自分で持ってきたんでしょ?」

「うん!」


 ご飯をかきこんで台所に食べた器を運ぶ。


「ご馳走様! 洗い物ごめん!」

「いいから置いておいて、早く着替えな!」


 急いで洗面所にいき髪を洗う。

 髪を乾かして数年使っているお気に入りのワックスで髪を整える。

 いつも決まるまで十分ほどは弄っている。


 急いで部屋着を脱ぐとインナーとワイシャツを着てスーツパンツを履く。そして、この日の為に買ったシルバーのネクタイを締めてジャケットを着る。


「よしっ!」

「大輝! ちょっと!」


 玄関前で止められてネクタイを直される。

 俺はいつも作業着だからネクタイに慣れていないからな。そんな言い訳を心でする。


「ありがと! 行ってきます!」

「気を付けてよ!」

「はい!」


 今日は親父が送ってくれる。

 親父はというともう駐車場で車を温めて待ってくれていた。


「親父ごめん! お待たせ!」

「おう。忘れ物ないか?」

「たぶん大丈夫!」

「まぁ、じゃあ行くぞ」


 そうして出発し、成人式は滞りなく終わった。周りの大学生の同級生とは温度差が違う。俺は家が余裕がなくて家を出て働いていた。両親の有難みは自分の身で感じた。


 働くってこんなに大変だったんだと。だから、今は昔の自分の浅はかさを反省している。そこまで行き着いていない同級生を馬鹿にしている訳では無い。けど、なんか冷めてみてしまう。


 適当に挨拶して帰ることにした。飲み会なんて参加する気になれない。親父に迎えを頼むのも悪いしコンビニで買い物をしてタクシーで帰る。


「ただいまー」

「あら、飲み会とかなかったの?」

「ん? んー。なんかいいかなって。帰ってきた」

「ふーん。そっ。ご飯は?」

「買ってきたからいいよ」


 迎えてくれたのは母だった。

 リビングに行くと親父が飯を食べ終わったところだった。

 テーブルに袋を置いて買ってきたものを取り出す。


 一つのビールを親父の前に置く。


「ん? なんだこれ?」

「いやー、いっしょに飲まないかなぁって」

「……そうだなぁ。飲むか……」


 オレもビールを空けて。


「「乾杯」」


 クビッと飲んでビールの苦さを痛感し、俺は大人になったんだと実感する。

 向かい側には母も座っている。


「なんか、こんなこと言うと思ってなかったけどさ……貧乏でやだなってずっと思ってたけど、働くことの大変さを分かった。だから、働いてよかったって思ってる」


「……」


 両親は俺を見て真面目な顔をしている。


「俺を育ててくれてありがとう。働いてきてくれてありがとう。俺も親父と母さん見習って頑張って働くわ」


「まぁ、体壊さないようにな。体が第一だからな?」

「そうよー? 頑張りすぎるのも体に毒なんだからね?」


 親父と母さんが諭してくれる。


 有難いな。


 込み上げてくるものがありながら、両親を見ると目頭を抑えていた。


 俺、親孝行してるのかな?

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俺の親孝行?~成人式を祝して~ ゆる弥 @yuruya

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