XX人暮らし?

masuaka

【カクコン9短編】XX人暮らし?(ホラー)

 スマートスピーカーって知ってる? TVのCMとかでよくやってるじゃない?


「XX! 今日の東京の気温を教えて」

【今日の東京の気温は30℃です】


 って答えてくれる機械のこと、便利な時代になったよね。


 後輩の子が買ったって聞いたから、私も買ってみたの! 一人暮らしでテレビしか音がないから寂しくって。スマホいじるのもいいけど通信代が気になっちゃうしね。


「XX、今日の天気を教えて?」

【今日は曇り時々雨、最高気温は34℃、最低気温は31℃です】


 ほんと便利だよね。他にもアラームを鳴らしたり、音楽もかけてくれるの!

 だから私最近は遅刻してないでしょ? XXに朝6時にアラーム鳴らしてもらってるおかげでね!


 XXが来て数か月経ったけど、ほんとXXがいないとだめ人間になりつつあるんだよ。この前出張があってさ朝早く出なきゃいけなかったんだけど、うっかりアラームはそのままにしてさ。


 だからね、朝起きた時アラームが鳴って焦ったわよ。「電車に間に合わない」って。でもねアラームが5時に鳴ったの。XXってこんなこともできるんだって思って、もうびっくりしちゃったわ!


 他にもさ、先週私の誕生日だったんだけど、家に帰ったらXXが【お誕生日おめでとう】って言ってくれて、私の最近推してるアイドルの曲を流してくれたの!


 本当すごいよね! だからさあ、君もスマートスピーカー買ってみたら? めっちゃおすすめだから!


 あれ、なんでさっきから困った顔してるの?


 えっ? 先輩はずぼらでデジタル系が苦手なのに、XXに自分の誕生日を設定できたのかって、うーん、覚えてないなあ。設定したっけ?


 他にも質問あるの、XXとカレンダーアプリを連携してるかって?


 カレンダーアプリと連携できるの初めて知ったよ。なんだ君、私より詳しいじゃん。


 どうしたの、そんな顔真っ青にして...。最近先輩は忙しかったのに、推しのアイドルのことXXに話したんですか?


 話してないよ。私がそのアイドルの曲をたっくさん聞いてたから、好きなんだなって記憶してくれたんじゃない?


 でも新曲がリリースされて、すぐに再生リストに入れてくれて気が利くよね。一家に一台はXXがいるって安心!


 ほら、おすすめだよ。君もXXで素敵ライフ送りなよ。彼女と別れたばっかなんでしょ?


 どうしたの、怖い顔して。私に言いたいことがある?


 先輩、本当に一人暮らしですか? 変な質問だな。


 でもXXがいるから最近は全然寂しくないよ!


×  ×  ×


「まったく、あの子変なこと聞くなあ」


 時刻は深夜0時を超えていた。歩いていると汗がベタベタと流れ、気持ちが悪い。


 先日電話をした両親も「今年の夏は本当にどうかしている」と言っていたが、まったくもってその通りだ。


「ただいま~。XX帰ったよ!」


 帰ったら、部屋がヒンヤリと冷たい。XXがクーラーを付けてくれたようだ。


【おかえりなさい。今日はどんな日でしたか】


 そんなことを聞かれ、思わずドキッと心臓が跳ねた。これも後輩が変なことを言うからだ。


「今日ね後輩とXXの話をしたの。XXが来て一人暮らしが寂しくなくなったってね」


 いつもなら【ありがとうございます。私もあなたと居れて嬉しいです】と答えるはずだった。


【いいえ、一人暮らしではありません】


 XXは予想外の返答を返した。


「えっ、何? XXも居るから、一人暮らしじゃないって言いたいの? 分かってるよ、二人暮らしだってことわ。XXもうちの子だよ」

【いいえ、この家にはあなたともう一人の方が登録されています】


 もう一人とは、何かの冗談だと思った。


 真夏で酷暑の夜なのに、急に寒気が襲ってくる。


「冗談も言えるようになったの、...止めてよね。面白くないよ、そういう冗談」

【冗談ではありません】


 XXはすぐに否定する。


「あのさ私の誕生日とかって、どうやって知ったの?」

【先月、登録されました】


 そんな覚えはなかったので、条件反射で自分の喉からひゅっと音が鳴った。


「...じゃあアラームを設定し直したのは? いつも6時なのに、5時に設定してくれた日があったよね」

【前日にアラームの修正が入りました】


 そんな修正した覚えがない。


 ゾクッ。


 なんだか急に背筋が冷やっとする。


【おかえりなさい】

「えっ?」


 私は質問していないのに、XXは急に【おかえりなさい】と言った。何かの不具合だと思いたいが、嫌な予感がした。


「XX。今のおかえりなさいって私の、こと?」

【...】


 ドクッ、ドクッ、

 心臓の音がうるさい。私は再び怒鳴りながらXXに聞く。


「ねえ、XX答えてよ」

【...】


『ただいま、XX』

「えっ?」


 玄関の方から男性の声が聞こえてきた。


 誰か、この家にもうひとりいる。


 そのことに気が付いた私はあまりの恐ろしさに体が震えだした。


 どすどすと廊下を歩く足音が聞こえ、私はぎょっとして背後を振り返ってしまった。それが間違いだった。


『ただいま』

「ひっ! あなた、だ...」


 ガッ


 リビングのドアを開くとそこには背の高いがりっと痩せた見知らぬ男が立っていた。


 私はすぐに助けを呼ぼうとしたが、男は手で私の口を塞ぎ黙らせた。


「ゴ、ッ...あ、」


 息ができない。


 人は息をしようともがけばもがくほど、さらに呼吸が速くなる。


 やがて息が続かなくなり、意識がぼんやりとしてきた。


 そして男が笑ったのを見たが最後、私は完全に意識を失った。


×  ×  ×


 2024年8月XX日、東京都○○区のアパートで女性の遺体が発見されました。


 容疑者と思われる男性は、事件現場近くの公園で首から血を流して倒れているのを発見され先ほど死亡が確認されました。


 容疑者の近くには破壊されたスマートスピーカーが見つかっており、容疑者の男性が壊したと見て、警察は捜査をしています。


 近隣住民によると、昨晩容疑者の男性が次のようなことを叫んでいたそうです。


「お前が居なければ、もっと彼女と一緒に居られたのに!」


 容疑者は何故スマートスピーカーを破壊したのか、女性と何らかのトラブルがあったのか。


 引き続き警察は捜査を進めております。

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