#127 優等生から学ぶ女の魅力とは




 ケンくんちから自転車に乗って市民プールに着くと、駐輪場には小学生くらいが乗ってそうな子供用の自転車ばかりが停まっていた。


 受付で一人100円の入場料を払って男女別れて更衣室に入ると、やっぱり小学生ばかりで高校生は私たちだけだった。


 さっさと着替えようと服を脱いで下着になると、ツバキは俯き加減でキョロキョロしてばかりで服を脱ごうとしない。


「早く着替えんと、ケンくんが待ってるよ?」


「でもやっぱり、私は・・・せめてスクール水着だったら・・・」


 ケンくんちで一緒にお風呂入った時はツバキのが潔くて大胆だったのに、やっぱプールだと他人の目とかあって恥ずかしいのかな。


「小学生しか居ないしヘーキだって!一緒にお風呂入った時はヒナの前でもすっぽんぽんで堂々としてたじゃん。モタモタしてると私が脱がすよ?」


「い、いえ大丈夫です。自分で脱ぎますので」


 ようやくツバキも着替え始めたので、私も下着を脱いでビキニに着替えた。


 着替えが終わると日焼け止めを塗って、お互いのチェック(自分で見えない背中の塗り忘れとか、下の毛が出て無いかとか)して、最後に髪をアップにしてお団子にしてから「じゃあ行こっか」とプールサイドに出ようとすると、ツバキが「やっぱり上に着て行きます」と言って、ケンくんから借りた着替え用の白いTシャツを着てしまった。


 まぁ、慣れないのにいきなり人前で大胆なビキニはハードル高いもんね。

 と、好きなようにさせたけど、でも更衣室から出てTシャツ着たまま水のシャワーを浴びちゃって、Tシャツがビショビショに濡れて下に着てるオレンジ色のビキニが透けて、却ってエロくなってた。


「Tシャツなんて着てるから」


「うう、プールなんて小学3年以来なので、泳ぐ前にシャワー浴びること忘れてました」


「どうせプール入ったら濡れるし、肌出すよりはマシなんじゃない?」


 濡れてしまったTシャツの裾を引っ張って少しでもお尻や脚を隠そうとしているツバキの手を引いてプールサイドに出ると、日焼けした坊主頭にツバキと同じオレンジ色の水着着たケンくんが、プールに向かって腕組んで仁王立ちで待っていた。

 クロックサンダルもお揃いだったし、水着も二人で一緒に買いに行ったからお揃いなのかな。

 なんかムカツク。


 背後からこっそり近づいて飛びつくように後ろから抱き着くと、「うお!?びびびビックリするからヤメテ!?」と期待通りの反応を見せてくれた。


 そのままおんぶの体勢でしがみつくと、ケンくんは「おっぱい!おっぱい当たってるよ!六栗さん!おっぱいが!」と私を振りほどこうと背中に抱き着く私を振り回したので、飛ばされないようにケンくんの首にしがみ付く腕に更に力を込めると「クビぃ!くるしい!絞まってる!」と振り回すのを止めて私の右腕を必死にタップして降参した。


「よく私だって分かったね?」


「こんなとこで、こんなことするの、六栗しか、居ないから」ゼェハァゼェハァ


「お揃いの水着見たらなんかムカついたんだし、しょーがなくない?」


「お二人ともはしゃぎ過ぎですよ。小学生じゃないんですからもっと豊坂高校の生徒としての自覚を持って下さい。先ほどから監視員さんが怖い顔でこちらを睨んでるんですからね?」


「俺は被害者だからな?いきなり抱き着かれた挙句に首絞められてたんだぞ?だいたい海行った時もそうだけど、六栗は俺を浮き輪か何かと勘違いしてるんじゃないのか?俺は真性チェリーの高校生男子なんだぞ?豊坂高校1年ツートップのビキニ姿だけでもドキドキ半端ないのに抱き着くとか止めてくれよ?桐山もだからな?」


「だから面白いんだし、ケンくんの反応見たくてわざとだもん」ふふふ


「お二人ともその辺にして準備運動始めましょう。しっかり筋肉を解して心臓を温めておかないと、筋肉が痙攣を起こして溺れたり、心臓発作で救急搬送されてしまいますよ」


 ツバキはそう言って一人で真面目にラジオ体操を始めると、ケンくんも一緒に体操を始めた。


 ケンくんとじゃれてたお陰で既に体は温まってた私は、真面目に体操を始めた二人を放置してプールに足から浸かると、「お先!」と言ってドボン!と頭まで潜った。




 ココの市民プールは私とケンくんが通ってた小学校の学区内にあって、小学生の頃に友達と何度も遊びに来たことがあった。

 競泳用の25メートルプールは一番深いところで1.2メートルで、幼児用のプールは膝までの深さしかなく、私が入ったのは競泳用の方。


 今日は夏休み初日ということでそれなりに人が来てるかと思ったけど、私たち入れても10人程度しか居なくてガラガラに空いていた。

 結構古いプールで当時からボロくて過疎ってるイメージがあったけど、ここまで空いてるとは思わなかった。

 でも、ナンパとかうっとおしいのは居ないし、混雑してるよりは全然いい。


 懐かしいなぁ、こんなに浅かったっけ、と久しぶりのプールにセンチメンタルな想いを仄かに抱きつつ、人の少ないのを良いことに大きくのんびりとしたストロークでスイスイと平泳ぎで泳いだ。


 対岸まで泳いで、「私の華麗な泳ぎ見てくれた?」と声を掛けるつもりで振り返ってプールサイドのケンくんたちを見ると、私のことなんて全然見て無くて、幼児用のプールで二人でイチャついてやがった。


 慌てて全力クロールで戻ってプールサイドに這い上がって幼児用プールにダッシュしたら、監視員さんに「プールサイドでは走らないでくださ~い!」と拡声器で怒られた。


 減速して、それでも全力の早足で幼児用プールに辿り着くと、膝までの深さしかないプールでツバキが内股になってブルブル震えながら「離さないで下さいよ!私が溺れたら直ぐに助けて下さいよ!夏場の水難事故は1日あたり平均4件も起きてるんですからね!絶対手を離さないで下さいよ!」とヒステリックに訴えながら両手でケンくんの腕にしがみ付いてて、ケンくんはそんなツバキを「大丈夫だから。こんな浅いところじゃ溺れないから。小学生だって全然怖がってないぞ?そんなんじゃツバキ姫のメンツが丸つぶれだぞ?」と冷静に宥めていた。


 どうやら、イチャついてるわけでは無いみたい。

 ツバキは親の方針で小学生の頃から水泳の授業はずっと見学を強いられてたから、プールには慣れて無くて怖いんだね。

 でも折角ガラ空きのプールに遊びに来たのに、これじゃ勿体ない。どうせなら、ツバキにも泳げるくらいには今日はプールに慣れてもらおう。

 ふふふ



 ビビりまくってるツバキの目の前に立つと、腰を落として両手の掌をお椀の形にして水面に突っ込み、ツバキに向けて全力で水を掻き上げ、ぶっかけた。


「ちょ!?ななななんてことするんですか!?」


「おりゃ!おりゃ!」バッシャ!バッシャ!


「やめてください!ちょ!卑怯ですよ!プールでは水難事故が頻繁に」


「おりゃ!おりゃ!」バッシャ!バッシャ!


「こら桐山!俺を盾にするな!」


「今度はケンくんか!?負けんし!おりゃ!おりゃ!」バッシャ!バッシャ!


「石荒さん!反撃ですよ!負けないで下さい!」


「こら押すな!六栗も止めろ!」



 大の高校生3人が幼児用プールではしゃいでいると、『只今より10分間の休憩時間になります。プールサイドに上がって下さい』とアナウンスが流れた。


 アナウンスに従ってプールサイドに上がると、仰向けになって寝ころんだ。

 ケンくんも私の右隣に同じ様に仰向けに寝転ぶと、ツバキは左隣に寝転ばずに体操座りになった。


「ツバキも寝転んだら?日光浴気持ちいいよ?」


「いえ、こんなところで寝転ぶなんて大胆なことは私には出来ません」


「プールなんだから寝転ぶの当たり前だよ?別に大胆なことじゃないし。ね?ケンくん?」


「大胆かどうかはともかく、六栗はもう少し大人しくした方がいい。さっきだって楽しそうに水掛けてたけど、ビキニに包まれた胸が凄いことになってたからね?ココが市民プールだからいい様な物だけど、海だったら下衆なエロ視線超集めてるからね?」


「胸が凄いことって具体的にどゆこと?」


 初心なケンくんを揶揄うつもりでわざとトボけて質問すると、左隣に座ってるツバキがいきなり両手で私のおっぱいを掴んで来た。


「コレですよ!この熟した果実がタプンタプンと暴れまわってたんですよ!なんですか!こんなに大きいのを惜しげも無く!」モミモミ


「ちょ!?なんですぐ掴むん!?ツバキだって立派なのあるじゃん!」モミモミ


 寝転んだままツバキの胸に手を伸ばして反撃する。


「止めて下さい!セクハラですよ!」モミモミ


「アンタが先にやってんだし!だいたいいつまでTシャツ着てんの!?いい加減脱げよ!邪魔くさい!」モミモミ



「あ、あの、二人とも、恥ずかしいから止めて」


 ケンくんがそう言いながら私たちから距離を取った。


 そうだった。

 最近ツバキと二人のときはよくこんなことしてたから忘れがちだけど、ケンくんはムッツリくんなので、ひと目があるところでこういうのは逆効果だ。



「ごめんごめん。もうおっぱいで遊ばないから戻って来て」


「おっぱいで遊ぶって、言葉だけ聞くと何だか凄いですね」


「おっぱいのことはどーでもいいから、ツバキはもっと水に慣れないとダメだね」


「そうだな、桐山はビビり過ぎだ。水難事故云々言うなら、溺れない様に水に慣れて泳げるようにならないとな」


「え!?おっぱいの話からどうして私の話に!?海や川に近づかなければ水難事故には遭わないですし、心配して頂かなくても大丈夫です」


「いや、いま正にプールに来てて、桐山本人が水難事故にビビってたじゃん」


「よし!ツバキの特訓しよう!休憩終わったら25メートルプールの方に行くよ!」


「はっ!?先ほどから心配無用だと言ってますよね!?なんでそう強引に人が嫌がることばかりをやろうとするんですか?だいたい六栗さんは無神経すぎるんです!思いやりと気遣い溢れる心優しいツバキ姫と呼ばれる私を少しは見習ってほしい物です!石荒さんもそう思いますよね!」


「いや、桐山も人が嫌がることばっかしてるからな?俺ずっと桐山に振り回されっぱなしだったからな?」


「ぐぬぬ、裏切者ッ!」



 教室ではお澄ましして優等生のフリしてるのが信じられないくらいにツバキが顔を歪ませてケンくんを睨んで悔しがっていると、休憩時間終了のアナウンスが流れたので、立ち上がって「ホラ!行くよ!Tシャツも脱いじゃって!」と言ってまだ座ってるツバキのTシャツを脱がせて無理矢理立たせて、逃げないように腕を掴んで25メートルプールまで連れて行った。


 でも、私が「小学生だって普通に立ってるでしょ?深さ120センチだから身長170はあるツバキなら全然余裕だし大丈夫!」と説明しても、「ムリデスムリデス」と相変わらず腰がひけてビビったままでプールに近寄ろうとすらしない。


 そんなツバキの様子を見てたケンくんは先にプールに入ると、両手を広げて「桐山、俺が支えとくから安心して来い」と優しく声を掛けた。

 するとツバキは、「うう・・・絶対に手を離さないで下さいよ?」と言いながらプールの縁に腰を降ろして足を水に浸けたと思ったら、吸い寄せられるようにプールの中へ入り、両手を伸ばしてケンくんに捕まった。


 私が安心させようと声を掛けてもずっと怖がったままだったのに、ケンくんだとコロっと騙されたみたいにプールに入ってる。

 なんだろう、この差。


 やっぱりツバキはケンくんのことが・・・って、さっきから意地悪ばっかしてたせいで私が信用されてないだけか。

 っていうかケンくん、海行った時に私にもそうだったし、基本的に女の子には優しいもんね。ツバキから見たら、積み重ねて来た信頼とかも私とケンくんじゃ全然違うか。


 にしても、ケンくん・・・

 プールに慣れて無くて怖がってるツバキと、独りでも泳げてはしゃいでる私とじゃ、当然ツバキを気に掛けて私は放置だよね。

 私も泳げないフリしてれば良かったかな・・・



 こういう時に、女子としての可愛らしさとかあざとさとか強かさとか庇護欲を掻き立てる魅力とかの差が出てしまうんだと思う。


 ツバキは変人だけど、女としてのずば抜けた天性の魅力を持っている。

 美貌やスタイルは言わずもがな、姿勢や立ち振る舞いや表情に話し方、その全てが女性らしくて同じ女の私でも見惚れてしまうことが何度もあった。

 マジで、黙ってればその辺のハンパなアイドルとかグラビアモデルでも太刀打ちできないと思う。あくまで黙っていればだけど。


 それに比べて私はガサツだし勢いだけで何とかしようとしてきた。

 ケンくんとのことだって、全部勢いだけだった。

 中2のバレンタインだって、高校入学前の遊園地のデートだって、この間の海水浴デートだって、全部気合いと勢いで何とかしようとして、結果全敗している。今思えばコンドーム職人とか血迷ってたとしか思えない。


 もしかしたら、ケンくん攻略の糸口は、目の前に居るこの豊高イチの美人で変人のツバキにあるのかもしれない。

 美貌やスタイルは真似出来ないけど、言動や表情なんかは私でもいけるんじゃない?

 ツバキみたいな女性らしさを備えれば、ケンくんは私にも振り向いてくれるんじゃない?


 よし、研究してやろう。

 変人ツバキの女性らしい立ち振る舞いを、私にも。

 それで、今度こそケンくんをメロメロにしてやる。



 と、新たな発見と決意を胸に秘めていると、ケンくんにしがみついたままのツバキが「鼻に水がはいりまぢたよぉ~」と泣きながら黄ばんだ鼻水を垂らしていた。


 それ見たケンくんが、めっちゃしかめて嫌そうな顔してる。



 豊高イチの美人のブサイク顔、まじウケる。











 第22章、完。

 次回、第23章 暮夏、スタートの予定。




 ___________



 いつもご贔屓にして頂きまして、ありがとうございます。


 猛暑の中、如何お過ごしでしょうか。

 お盆休みに入り、なんとか連休中には続きを書き進めたいとは思ってますが、この暑さですので直ぐに挫けてしまいそうで、また気長にお待ちいただければ幸いです。




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転がり続ける少年少女 バネ屋 @baneya0513

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