第4話 新しい関係

 ――夜になって、私は一人、風呂の湯に浸かっていた。

 キスで魔力を与えた後、ルイネとは多く会話を交わすことなく、また明日来る――そういう約束で別れたのだ。

 結局、幼馴染と一年ぶりの再会だというのに、話したいことだって色々あるはずなのに、全部がキスで塗りつぶされてしまったような気がする。


「……」


 静かにしていても、思い返すのは先ほどのキスのことばかり。

 思わず、湯舟に頭まで浸かるが――記憶に蘇るのはそのことばかりだ。


「……ああ、もうっ!」


 湯船から顔を出して、私は一人で声を上げる。

 顔まで火照る感じが続くのは、きっと長くお風呂に入りすぎたからだ。

 お風呂から出て、私は裸のままに少し身体の火照りを冷ます。


「一年ぶりに再会して……キスして終わりってなんだろ……」


 私以外とはしたくない――それが本音だとするのなら、ルイネは私に対して、友人以上の気持ちを抱いている、ということだろうか。

 結局、何も分からない――だって、一年という時間は、そんな単純なものではないからだ。

 この日、私は久しぶりに眠れない夜を過ごすことになる。

 そうして――明け方、ルイネはまた私の下へとやってきた。


「昨日ぶりですね」

「……うん」


 顔を合わせたルイネはびっくりするほど普段通りで――久々に再会した私も、それを『普段通り』と感じてしまう辺り、思わず苦笑してしまう。


「こちらは書類になります」

「……? 何の書類?」

「私と一緒に行動するための補佐官としての契約書です」

「! ちょ、ちょっと待ってよ! それは一年前にも断ったはずだよ」


 そう、同じ話は一年前にもルイネから受けている。

 けれど、私は彼女の傍に居られるほどの魔導師ではない――だから断ったはずなのに。


「状況が状況ですから」

「『淫魔衝動』の話? それは、起こった時に来てくれたら――」


 私の言葉を遮るように、バンッと勢いよくルイネが机を叩いた。

 思わず目を丸くして彼女を見る。

 しばしの沈黙の後、少しだけ恥ずかしそうにしながら、ルイネが口を開いた。


「……いつ起こるか分からないから、傍にいてほしいんです。この理由では、ダメですか?」


 私は――彼女の言葉にすぐ答えることはできなかった。


「……あなた以外と、キスとかえっちなこと、したくないので」


 昨日のルイネの言葉を思い出してしまう。

 それはつまり、もしも『淫魔衝動』が起こってしまった場合に――私以外とするつもりはないということで。

 身体を許せるのは、私だけということだ。

 その真意については、確認しておいた方がいいのかもしれない。


「……昨日の、その、私以外とはしたくないっていう話」

「っ」


 私がそう切り出すと一層、ルイネは顔を赤く染めて、恥ずかしそうな表情をする。

 ――冷静だった彼女はどこへやら、視線が泳いだ後に、ルイネは静かに口を開いた。


「……聞かなくても、分かることでしょう。そのままの意味ですから」


 そう言われてしまっては、私もこれ以上は追及できない。

 ――要するに、私が思っている通りの意味なのだから。


「……分かった。サインすればいいんでしょ?」

「! お願いします。それから……この後、キスしてもいいですか?」

「え、昨日したばかりなのに!?」

「事前にしておくことも、その――衝動を抑えるのに必要なので」


 まるでキスをする理由をつけるかのように、ルイネは言う。

 一年前に断ったはずなのに、再び関係が戻った私達は――当たり前のようにキスをする関係になってしまった。

 彼女のその衝動を治す方法も分からないし、治るのかも分からない――だから、私はこれから、彼女の望んだ時に口づけとかわす。

 そんな、幼馴染との新しい関係が始まった。

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「あなた以外とえっちしたくない」と聖騎士になった幼馴染が押しかけてきた 笹塔五郎 @sasacibe

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